【句集を読む】
青鷺の腋
渡邉美保句集『櫛買ひに』の一句
岡田由季
魚くはへ腋のゆるびぬ青鷺は
青鷺は「静」の印象がある鳥だ。田んぼや川べりに、ずっと同じ姿勢で長時間佇んでいるのを目にする。そのどこか哲学的な風貌の印象もあり、何か深い思索に耽っているようにも見える。
掲句ではそれに対し「動」の状態を詠んでいる。青鷺の捕食の場面に何度か遭遇したことがあるが、目標の魚を水中に見定め、そろりと一歩、二歩と近付き、一気に捕獲。その魚を丸呑みにする。魚が暴れたり大きかったりすると、少々手間取ることもあるようだ。なかなかに生々しく迫力のある光景だ。
どのような動物でも、食事中は無防備になりがちではあるが、「腋のゆるびぬ」というと、古武士が一瞬油断したような人間臭さが感じられるように思う。何とはなしに可笑しく哀しい。
青鷺の普段の、ゆるみのない佇まいを見ているから、その場面のゆるびに目が行ったのだと思う。青鷺は見飽きない鳥だ。作者もきっと鳥を見るのが好きな人なのだろう。
渡邉美保句集『櫛買ひに』(2018年12月/俳句アトラス)より。
集中の、鳥の句をいくつか。
石ころに川鵜に秋の日差しあり
蚊母樹(いすのき)のすさびやすくてみそさざい
鳧(けり)鳴いて行き所なき田水かな
冬ざるるもの青鷺の飾り羽
きのふ鷺けふ少年の立つ水辺
双眼鏡に光の反射かいつぶり
初雀金柑の木に日の当たり
秋出水鴨横向きに流さるる
2019-03-31
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