【句集を読む】
壺
橋本薫『青花帖』の一句
西原天気
壺の口撫づれば響く天の河 橋本薫
「天の河」への展開がむりなく読者の胸に「響く」のは、ひとつには、「壺中天」の故事を思えば、壺という事物のミクロコスモス性の為すところであり、もうひとつには、この句にある音が、実際に聴いたことはなくとも、グラスハープの擦音とそうも違わずと見て、いわゆるスペイシーな音色と容易に判断できるところ。
指先の触感、音、そして大景が、同時に一句の中に収まる。とすれば、この句それ自体が、ミクロコスモスたる壺のような存在として、読者のそばにある、ともいえる。
句集より、気ままに。
木偶の身を打てば木の音春の雪 同
音から「春の雪」への展開。前掲の句と同様にむりがない。雪の下で芽吹きを待つ植物(木々を含む)のことが淡く想像されるからだろう。
反故捨てむとて読み溺る夜の緑
ひとりの沈潜した時間。それを包み込む緑がみずみずしい。
微震あり塔のどこかに蝶がゐる
綿虫が指に手紙の来さうな日
かすかなる火星の光茄子の馬
窯の火を落とすや真夜の百合の花
橋本薫『青花帖』2019年1月/深夜叢書社
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