2019-04-28

【週俳3月の俳句を読む】春である 久留島元

【週俳3月の俳句を読む】
春である

久留島元


墜落の蝶に真白き昼ありぬ  安田中彦

「蝶墜ちて大音響の結氷期 赤黄男」や「頭の中で白い夏野となつている 窓秋」などの句が織り込まれているか。

蝶や白といったキーワードに先行するテクストが重ねられながら、麗らかな春が隠し持つ不安さが顔を覗かせる。

犬を野に不満の春をどうしよう  安田中彦

どうしようと言われても、どうしたらよいのか。

わからぬところが不満なのであり、犬の散歩という日常が、不満と悩みをかかえた春の野に引き込まれ、巻き込まれていく。

「パイロンて何」早春の交差点  加藤綾那

会話体から始まるこの一句には、「知らない!」と大声で返事をしながら交差点を走っていけそうな、あるいは、交差点で合流した相手と並んで歩きながら「カラーコーンじゃないの?」と会話できそうな、若さとリアリティがある。そして読者は、一句から立ち上がる「若さ」をうらやましくも、好もしく思うのである。

腕時計しない手首に春の雨  加藤綾那

今どきスマホがあれば時計はいらない。それでも、「腕時計をしない手首」には、なにか護られていない、社会人になりきっていない、そんな無防備な若さと強ささを感じさせる。

船腹の膨らみ春の夜を圧す  髙勢祥子

不安と、若さと、そして幸福が同居するのが、春である。

客なのか、荷物なのか、なにかを満載した船の、その膨らみが、あたたかく、水分もおおい、おぼろ月夜のなかでみちみちて、存在感をもっているのである。



第620号 2019年3月10日
安田中彦 黄 蝶 10句 ≫読む
第6212号 2019年3月24日
広渡敬雄 八戸えんぶり 10句 ≫読む
加藤綾那 つるつる 10句 ≫読む
第6213号 2019年3月31日
髙勢祥子 額 10句 ≫読む

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