【週俳3月の俳句を読む】
春である
久留島元
墜落の蝶に真白き昼ありぬ 安田中彦
「蝶墜ちて大音響の結氷期 赤黄男」や「頭の中で白い夏野となつている 窓秋」などの句が織り込まれているか。
蝶や白といったキーワードに先行するテクストが重ねられながら、麗らかな春が隠し持つ不安さが顔を覗かせる。
犬を野に不満の春をどうしよう 安田中彦
どうしようと言われても、どうしたらよいのか。
わからぬところが不満なのであり、犬の散歩という日常が、不満と悩みをかかえた春の野に引き込まれ、巻き込まれていく。
「パイロンて何」早春の交差点 加藤綾那
会話体から始まるこの一句には、「知らない!」と大声で返事をしながら交差点を走っていけそうな、あるいは、交差点で合流した相手と並んで歩きながら「カラーコーンじゃないの?」と会話できそうな、若さとリアリティがある。そして読者は、一句から立ち上がる「若さ」をうらやましくも、好もしく思うのである。
腕時計しない手首に春の雨 加藤綾那
今どきスマホがあれば時計はいらない。それでも、「腕時計をしない手首」には、なにか護られていない、社会人になりきっていない、そんな無防備な若さと強ささを感じさせる。
船腹の膨らみ春の夜を圧す 髙勢祥子
不安と、若さと、そして幸福が同居するのが、春である。
客なのか、荷物なのか、なにかを満載した船の、その膨らみが、あたたかく、水分もおおい、おぼろ月夜のなかでみちみちて、存在感をもっているのである。
2019-04-28
【週俳3月の俳句を読む】春である 久留島元
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