【句集を読む】
夜空の菫
藤本夕衣『遠くの声』の一句
西原天気
深々と夜空につつまれて菫 藤本夕衣
まずもって色の取り合わせの美しさ。そののち質感が互いに呼応し、双方の柔らかさが増す。
「深々と」というのだから、ちょっとした視点の転倒もある。つまり、地上からではなく夜空(上方)から、この配置を語っている。
美しい句は、それ自体が置き物、といってカジュアルに過ぎるなら、イコンと呼んでなにがしかの聖性を加えるのであってもさしつかえない。置き物、イコンとして美しい句に出会うと、その美しさに心を委ねるということ以外に、あまりすることがない。
俳句は、描写ではなく(描写と限られるものではなく)、媒介ではなく、意味の乗り物でもないので、その句自体が、どのように美しいか(あるいは、美しさ以外の価値を、いかに備えているか)がもっぱらの関心事となる。
(描写なら媒介なら意味の乗り物なら、もっとふさわしい字数・音数があるだろう。機能・実用とは遠い場所に、俳句は、ある)
さて、掲句と同じく、垂直の配置を用いた美しい句が、集中に、もう一句、見つかった。
白雲のひかりだしたる穴惑 同
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