【七七七五の話】
第1回 蛍の音
小池純代
飲んでそだったつめたい水が
なんで炎になるんだろ
七七七五、細かくは三四・四三・三四・五の都々逸形式。この形式に出会ったばかりの頃、新たな知友にせっせと手紙を送る気分でいそいそと作っていた。そのときの一句がこれ。「蛍」の詞書をつけて歌集に収めた。
水腹なのにお尻は燃えている。神秘的だ。聖なる虫というものがあれば蛍ではないか。そう思っていたのだが、幼少期の蛍は肉を食べるのだそうだ。餌食はカワニナ、タニシなどの巻貝。略奪で築いた王朝の輝きが、あの明滅だったのだ。水だけで一生を送る虫ではない。だから蛍を思って読むとこの句は嘘になる。無知と思い込みによる間違いだ。
蛍は鳴かない。これも思い込みかもしれない。
『閑吟集』の小歌の絶品、
わが恋は 水に燃えたつ蛍々
もの言はで笑止の蛍
都々逸形式とは知らずに馴染んでいた、
恋に焦がれて鳴く蝉よりも
鳴かぬ蛍が身を焦がす
蛍は声音を発しないことになっている。それでこんな都々逸を作ったことがある。
なかぬ蛍と決めつけられて
人に聞こえぬ声で泣く
蚊の羽音と同じく、蛍の羽音もあるのではないか。暗闇に浮遊する光とともに微かな音を立てているのだとしたら、それはどんななき声に聞こえるのだろう。
2019-07-07
【七七七五の話】第1回 蛍の音 小池純代
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