2019-09-15

【句集を読む】酷薄 津田ひびき『街騒』の一句 西原天気

【句集を読む】
酷薄
津田ひびき街騒』の一句

西原天気


火事跡の巻けば奏でるオルゴール  津田ひびき

筐体は材質がまちまちなのでともかくとして、シリンダー部分は金属製なので、たしかに焼け残る。火事跡をつぶさに見たことがないが、かたちをとどめて焼け残るものは、ざまざまあるのだろう。

火事のあと、静謐とまでは言わないまでも、燃えているあいだ、消火するあいだの喧騒はすでになく、オルゴールの小さな音もはっきり聞き取れるくらいには静かだ。

火災の直後に、オルゴールを巻いてみる、巻いてみたら鳴った、という事態に、私たちの感情は、どう動くのか。つまり、そこに、悲痛を見て取るのか、美しさを感じるのか。句は、そこまでは言わない。感情は、読者の事柄だ。その、知ったことかといった無縁、読者との《距離》こそが、俳句のもつ《酷薄》かもしれない。作者が酷薄であろうとなかろうと、ある種の事実の提示、出来事の切り取りはしばしば酷薄なそぶりとなる。


津田ひびき句集『街騒』2018年2月/ふらんす堂

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