■2019角川俳句賞「落選展」■ 1. 落合耳目「さらにうへ」

■2019角川俳句賞「落選展」■
1.  落合耳目「さらにうへ」

 

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さらにうへ　　落合耳目

八月の包容力としてダム湖
遠山は日の坐る場所花煙草
名月を浮かべて常時満水位
みづうみの斑の数秋の雨の数
ダムを抜けまた十月の川となる
橋脚は蹲踞のかたち雁渡し
ダムの背は父の背に似て冬隣
弁当にブロッコリーといふ樹海
立つことを強ひられてゐる冬木立
尿のごと利水放流今朝の冬
凍蝶のひらひら溶けてゆく日向
餃子にも羽があるなら神渡し
林業の列冬山へ冬山へ
思案する振りをしてゐる浮寝かな
所用あり決して煤逃げでは非ず
日蝕のごと冬帽へ潜り込む
寒鯉へ重たきみづの集まり来
ひととせは豊かな分母初暦
絵双六東海道といふ螺旋
手袋を握る拳骨とはならず
半径はリードの長さ春まぢか
啓蟄の秒針一歩づつ進む
鷹鳩と化しそのへんにゐたりけり
水底へ腹を晒して春の鴨
春山に羽を持たざる子を立たす
肩車して春山のさらにうへ
片栗の咲いて睫毛を整へる
疑似餌めく初蝶喰つてしまひさう
チューリップすこし背伸びをすれば空
亀鳴いて選挙カーから手の生えて
風船を空へ落としてしまひけり
元号はきれいに移りところてん
冷蔵庫開けて令和の鮮度かな
一瞬の新陳代謝こひのぼり
夏山とスクラムを組むやうにダム
尾と貌の見えざる蛇の前後かな
掃除機の肚に胃袋走り梅雨
揚羽蝶風折り畳みつつとまる
阿修羅仏とは健やかな燕の巣
袋角なら罪となることはない
噴水のてつぺんにある成長期
平成も終りましたが扇風機
靴跡にまみれて夏の山となる
観音の性は不確か夏の月
説得に応じずに滝落ちにけり
ピッチャーズマウンドといふ夏の山
一人居の熱源として金魚玉
老人が少年となる登山口
永久歯ほどの永久夏休み
登山せり吾に副蹄のあるかぎり
○