■2019角川俳句賞「落選展」■
2. クズウジュンイチ「水路」
（一次予選通過作品）
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春泥や次次と来て頭数
三人の距離に偏り犬ふぐり
鳥帰る電球黒ずめば唸る
まらうどにすつと近づくつばくらめ
春風の抜けて素焼の耳飾り
さへづりを引つかけておく指の骨
傾けて軽き自転車土手は花
ほほじろや橋は架かつてゐる水路
ひやみづを開いて鱒の遡る
ひばりごと空の流れてゆきにけり
みつばちの外働きの終ひかな
花守の窓すれすれの通り道
うぐひすは北にひらけてゐる敷地
薄く彫る面の目鼻や花筏
春の虹こする楽器を知つてゐる
花冷や古き梯子に棘の立つ
きなこもち遅日の卓にむきだしに
ぽろぽろと蝶の命の遠ざかる
夏薊目玉に膜のあるくらし
手羽先の骨に滲む血梅雨晴間
しやわしやわと夜通し食んで夏蚕かな
光沢のシャツがめじろの木の根元
工場の一部冷房耳にピアス
鳴かずとも振る鈴虫の髭白し
駅前のカンナは錆びて話し声
芋虫の記憶失ふ蛹かな
短くて猿のしつぽや山椒の実
凶作のみづに触れなばあをあをと
鶏頭の乾いて自転車をさはる
人形は目を開けてゐる蔦の家
秋鯖の大きな顔を落としけり
稲刈の機械に親が乗つてゐる
レモンふふむ大きなバスは遠くまで
ひよどりの小さく群れてずつと街
消えぎはの焚火の芯を蹴り出しぬ
小春日にいくらか笑ひ合つてゐる
劇物の瓶の小振りや枇杷の花
山茶花へ色を集めて道の果つ
しばらくは鷹が止まつて斜めの木
みづぎはの顔をこすつてゐるいたち
寒柝の音をかへして石畳
雪虫の汁が眼鏡についてゐる
横薙ぎの鳥が返してくる枯野
ほどほどの南に暮らす花八手
火事の家の犬が鎖を曳いてゐる
冬晴や鳩の足環のすかすかと
クレーンが鯨をやはらかくつるす
うしろから自動車が来て霙かな
水鳥が集まる空と似るところ
舟底に寒鮒生きてゐて静か
○
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