2019-11-10

■2019角川俳句賞「落選展」■ 11. 青島玄武「失恋」

2019角川俳句賞「落選展」
11.  青島玄武「失恋」








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失恋  青島玄武

上見れば開く瞼や梅の花
恋猫に先輩風を吹かさるる
山火なほ寒々とある夕べかな
鼻噛んで雪解の村のラーメン屋
朧夜や菩薩の顔は罅割れて
涅槃の絵みんな失恋し給へり
日永し従姉妹の家の匂ひかな
大雨の中を戻れば雛の家
適当に五人囃子は飾られて
亀鳴くや青年いまだ反抗期
春の雨袖より舞台観るやうに
フリージア今日は寿司屋に行く日なり
一人ゐて二人の影や潮干潟
バリトンから歌曲始まる桜かな
花の宴ボタンの糸のほつれあり
遠足をくねくね曲げる熊本城
はくれんや迷へるままの花ざかり
春苺抱へスーツの男かな
幾年も阿蘇を育み田は青し
おにぎりの包みが浮かむ池涼し
燕子花踏みつつ夜を帰りけり
鯨幕パイナツプルが振る舞はれ
袋からパスタを放つ白雨かな
山中や川涼みするインド人
水槽の鮴の機嫌を取る主人
茄子が茄子たるを忘るるまでぐつぐつ
南風ビルを建てたり壊したり
万緑に組み込まれたる古刹かな
肥満児のプール開きの後の顔
夜の秋や畦道を往く救急車
白木槿お寺の裏のラブホテル
刺青の虎も酔ふなり虫の夜
絵に描きし南瓜を貰ふ画学生
風響む菊人形の腸に
円卓を醤油が回る星月夜
台風が西郷像とぶつかりぬ
首投げて見下ろしてみん紅葉山
底冷えや一升炊きのお赤飯
足袋脱いでまだ不自由な国にあり
顔見世や包帯のまま大向かふ
年齢と反比例する聖菓かな
枯野行くとは青空を歩むこと
あめつちのみにちゆあなりしもちつき機
行く年やカレーを灯すお漬物
肉体の波濤が玉を競りけり
海そして街を浸せり初茜
駅長が女神の役を里神楽
小さきバス小さきバス停山眠る
日脚伸ぶ轆轤を回し回すたび
冬の雨城は未完に戻りけり


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