■2019角川俳句賞「落選展」■
10. 薮内小鈴「枯山吹」
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枯山吹 薮内小鈴
倒木の土と化しゆく百千鳥
水飲んで嘴をうづめし春蜜柑
紅梅や一人づつ入るパンの店
房総の野焼ばうさうたる呻り
染工場錆のきはまり水温む
日永し樹洞の内を覗きこみ
鴨引いて足が遠のく媼かな
大き藻の房にはりつき花の塵
雪柳ラジオは話よどみなく
どの路地も浜へ出るみち鳥曇
春遅き町を過ぎつつ春惜しむ
工房を継がずしてシェフ松の花
青嵐世界の仮面そろふ部屋
バケツ手に堤越えたり夏の海
ゆつくりと遺影を抱き祭中
また朝の来てゐるらしき冷奴
蓮の葉にみどりのかほで蠅の乗り
水槽とならぶ箱庭池をもつ
チャボ飼へば巨木と育ち夏の月
爪の上の雨のつぶてや半夏生
下町に惹かれ初めしソーダ水
蝉しぐれ太極拳は雲をまね
あからみて星現るる大南風
一日やテントに踊る影うかび
うつすらと産毛はそよぎ桃実る
新涼の荷台に植木ベル鳴らし
落書きの残れる厠葛の花
照り返す貝殻ふゆる蜻蛉かな
秋茄子柱時計と真向ひに
靴くぐり蟋蟀歩み来し方へ
金物があちらこちらに秋の雨
無造作にコスモス束ね厨人
只今の秋空そしてさやうなら
猿茸はたと仰いでうらの白
鶺鴒や流れに名前あるところ
拓本にものの手ざはり鰯雲
銀杏を剝く古の眼のごとく
揃ひなる奏者のジャージ散紅葉
すれ違ふ腕に梟たしかにゐ
霜月のヒマラヤ杉は海を向き
焼芋屋石に星屑まじりたる
川音をかすかに聞きし干蒲団
夜噺の外をつきぬけ消防車
厚き手のてらてら動き鰤捌く
犬とほき犬にこたへて霜柱
湧く水の枯山吹を乞ふごとし
マスクして小さな駅の前に店
古写真に映る人びと冬深し
寒木瓜や頬のうちには飴のいろ
市の端の壺に立ちたる猫柳
○
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