2019-11-10

■2019角川俳句賞「落選展」■ 9. 丸田洋渡「花のゆうべ」

2019角川俳句賞「落選展」
9.  丸田洋渡「花のゆうべ」







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花のゆうべ  丸田洋渡

春暁の谷を隔てて鳥と鳥
梅の花犬につられて子が走る
春疾風木に番号が書いてある
立てば花遠くなり野に春は来て
囀や行きも帰りも通学路
てらてらの葉の上にある椿かな
水温む母には母のうすねむさ
一時の父の鋭さ花ぐもり
まひるまの砂絵の麒麟油かぜ
拭いてから触る骨壺花あしび
藤棚や万年筆に濃と淡
蜂蜜のようなたそがれ望潮
こでまりの花やゆうべを一番愛す
鷲の巣や静かな場所で書き直す
夏浅し孔雀は羽を閉じて寝る
噴水のひよひよとでて巻きもどる
緑陰や言葉に未だ形無く
葉桜に止まるいつかは鳥に生まれ
木洩れ日に犬さしかかり五月の犬
芍薬や喜びは球体である
風鈴を繋げるように坂上る
夏の月料理に皿はひとつずつ
茉莉花や頭捥がれて神の像
脳を掲げつづける首や卯月曇
ばらばらに道濡れていて夏祭
百日紅死はなめらかに父に母に
朝曇二つしかない家の鍵
青鷺はしばらく釘になって待つ
妹は祖母を知らずに墓参
水澄みて母に死のこと言いかける
心とは空に置きざり秋の鳥
月の暈人体という柔らかさ
月光に針の再び冷たくなる
鶺鴒や詩の短さの透きとおる
夜顔と白磁に入る罅の白
吾亦紅夢に出てくる町の地名
鹿の毛の斑らに光るところあり
太陽も咲くことあれば菊の花
卵白の上に黄身あり秋の風
火とおもう金木犀を掻き集め
鵯や妹にまだ小さな手
冬うらら父に教わることばかり
風花に似て妹の育ち方
乙字忌の香車突込みうらがえす
開閉に鳴く蝶番冬の月
くらやみの水の宛先鐘凍る
寒鯉は手をかえす踊りのように
凍滝や人の死ぬ夢ばかり視て
息吸えば朝あたらしく冬桜
白鳥の夕の空に足伸ばし

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