■2019角川俳句賞「落選展」■
8. 古川朋子「みみづくの散歩」
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みみづくの散歩 古川朋子
春の川生きて可笑しなことを言ふ
かさぶたはかさぶたのまま牡丹雪
この先の靴跡深し菫草
暮るるまで窓のひなたのシクラメン
自転車を押して麗らか船に乗る
春昼のダクトの裏にずつと鳩
春泥のわづかに水を流すかな
囀や両手にアメリカンドッグ
また少し夕日くづれて梨の花
鉄塔は囲ひのなかに花は葉に
夏帽子濡れて夕方匂ひける
海に来て山の近さよ氷水
潮風に馴れて白シャツくしやくしやで
やかん置く扉ひとつの冷蔵庫
夏草を噛む山羊の目の半開き
滝の音すこし歩めば川の音
夕焼を来て口笛とタンバリン
矢印の空を指したる帰省かな
手拭ひを使ひあぐねて祭の子
神さまに輪郭のある涼しさよ
西日さす自動販売機のうしろ
右手より細き左手秋に入る
爽やかに如雨露を揺らしつつ来たる
秋めくやラスタカラーの少年も
立ちながら眠るペンギン秋の昼
僧侶いま眼鏡拭きをる曼珠沙華
しづけさのまま夜に入る野分あと
遠目にもわかるおむすび岸は秋
鰡跳ねてけふ日曜のこの感じ
たてがきの表札ふたつ蔦の家
雨に寝て雨に目覚めて冬近し
色変へぬ松のかたまりより鴉
風狂のビルと思へば時雨なり
みみづくの散歩はひとの肩の上
鴨小鴨みづ広げつつ遡る
釣人の迷彩柄の小春かな
マフラーにそつと沈んでゆくあくび
室咲やひとりにひとつ長机
暮市の菜屑に足を取られけり
初夢に見てにぎやかなお正月
初凪や漁港に犬を遊ばせて
戸を引けば階段のある寒さかな
建物のおもてに向けて干す布団
寒鰤の半身やぴくりぴくりして
貝寄風に錦糸卵の吹かれとぶ
いちにちは全き青のヒヤシンス
夕桜墓地にベンチのなかりけり
いきいきとおたまじやくしに蛙の目
春はジープ車高のなかばまでタイヤ
ごきげんな一羽とおもふ春の鴨
○
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