2019-11-10

■2019角川俳句賞「落選展」■ 7. ハードエッジ「会ひに来よ」

2019角川俳句賞「落選展」
7.  ハードエッジ「会ひに来よ」








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会ひに来よ  ハードエッジ

お目覚めの熊に食はるる蕗の薹
歳時記の春の巻より春の風
背が伸びて細き手足や雛祭
桜貝永遠に幼き桜色
花びらを蝶の如くに壁に刺す
畑中に小便もらふ桜の木
味見するやうに子猫を舐めてをる
バックネット裏のあんパン春の雲
壺焼の壺を貰つて帰りけり
山葵田の水全幅で奏でをる
虚子の忌の棒を継ぎ足し継ぎ足して
電柱は刺さるレガッタは進む
誤用また楽しからずや五月晴
梅雨の月花より濡れてゐたりけり
毒だみや夜遊びに行く五六人
子宝のこぼれむばかり燕の巣
馬車飾る鈴になるべし花南瓜
宿浴衣きのふは絣けふは縞
石と木と鉄の道あり炎天下
冷房のなき本堂の太柱
丼は涼しと猫の子が眠る
胡瓜揉み塩辛き手となりにけり
ひまはりは雪の深さを知らざりき
番号や団地の壁の夕焼けて
みづからも骸となりし蚊遣香
冷蔵庫バタンと閉めてまた明日
八月の赤字九月の黒字かな
白桃を夢の高さに積み上げて
曲りつつ青き稲穂は金色に
稲は日に芋は土中に太りをる
縦書は塔婆に良けれ曼珠沙華
これよりぞ秋刀魚祭が火を噴いて
下駄箱の中の長靴秋の暮
屋上に駐車場あり今日の月
蜂蜜のとろりと夜学果つる頃
毛糸玉子猫のために買ふことも
健気なりコンクリートも大根も
葱買うてパン屋の前を通りけり
剥く時の林檎包丁蜜柑指
湯ざめするまでは湯ざめでなかりけり
買ひ替へし鍋に始まる年用意
行く年に息を凝らしてゐたりけり
山寺のあたりが赤し除夜の鐘
ぽつかりと初日を生めり海の上
泣初の赤子の舌の短さよ
初夢に見知らぬ人がにこにこと
瓶に入れ流してみたき宝船
着飾りて詩歌の国の歌留多会
寒卵売場乳製品売場
もう一度子猫になつて会ひに来よ

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