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2022-12-11

【連続掲載】作品50句〔3〕 ■ハードエッジ 花氷 50句


  花氷 ハードエッジ

東風吹かば鶏冠高く風見鶏

雛様に珈琲苦し我が飲む

畑打の仕上は雷に託しけり

大いなる自重の末の大雪崩

うすらひのうすらわらひの水たまり

美しき夜道を帰る彼岸かな

みるならばぼうつとみたき桜かな

四十・五十・六十余年昭和の日

ひよろひよろと白ひげ伸びて躑躅枯る

一粒で二度美味しいぞ花は葉に

花蜜柑その他橙・金柑も

幼子も匙を器用に豆ごはん

赤に黄に傘や合羽や梅雨楽し

荒梅雨の袋ぶらぶらランドセル

枇杷の種ほどの俳句も良からずや

青空に憧れて黴青むなり

もぎ尽くすまでは我家の茄子畑

庭干しの鯵の開きを今朝の幸

道端の草もずぶ濡れ撒水車

東京で見かけし電車夏の山

夏雲の白く眩しく美しく

空母とも呼ぶべき雲が夏の空

風死してピクリともせぬ暑さかな

炎天の足下に焦げて影小さし

地の涯に天を支ふる花氷

雷の字は雨と田んぼや微笑まし

雷鳴の渡り廊下を給食が

虹が出て橋の下より拾はるる

虹の根を煎じて飲めと言はれけり

扇風機除湿機空気清浄機

どうどうと滝の重みの夕立かな

夕立にとても大きな駐車場

鯵フライ文明開化の味がする

肉を焼く煙に噎せて夏の月

軽トラに夜店一式積み込んで

ティアラして夜店を帰る女の子

帰り道暗し夜店を振り返る

火蛾と言ふ美しき名の太り肉

通ひ路の雨を厭はず火取虫

ががんぼのやうな人生かも知れぬ

子燕の喉に押し込む蜻蛉かな

恋ゆゑに海月となりし天道虫

やや小さき蟇の来てゐる今年かな

蠅を取る道具色々郷土館

松葉牡丹ざらりと種を零しつつ

湖の闇の深さよ遠花火

木枯を切り分けてゐる風見鶏

ことことと弱火のちから冬籠

怪獣のよく出ることよお正月

山の湯に朝な朝なの寒卵



 

【連続掲載】作品50句〔3〕 ■ハードエッジ ベンゼン環 50句



  ベンゼン環 ハードエッジ

メリーゴーラウンド春光を紡ぎ出す

日めくりのまだ分厚くて春の雪

春雪の仮りそめに組む花筏

ひんがしの山の雪解け日本海

ふらここや靴を飛ばして足長き

春燈の消えて闇夜の影法師

何の菜か宿の菜飯の色違ひ

切先の鋭きを地に挿木かな

妻に子に我に臍あり万愚節

名札は胸に苗札は赤土に

古株に日の目を見せて根分かな

遠足の園児と聞けばそれだけで

復活のなき安らぎの涅槃像

蝶になる夢を忘れし蜆やも

辞書に並ぶ「ミサ」と「ミサイル」恋の猫

あくびなら子猫も負けてをらざりし

切つてあるハムやチーズや朝桜

ゴジラいま地球の味方花吹雪

花吹雪本気を出して来りけり

若草に厩出しといふ一大事

六月の朝の六時の空の青

右の頬に左の頬に梅雨の髯

片陰が道の右から左へと

シャワー「弱」さへ日焼の肩に噛み付きぬ

装束で買ひし麦酒のハズレかな

豆飯に莢豌豆のおみおつけ

羅を鋼仕立に甲羅かな

蛞蝓の百の重さの蟇

茄子、胡瓜、牛蒡、大蒜、萵苣も咲き

甘藍の外葉大いに反り返る

水たまり秋の欠片を浮べたる

爽やかに引きし補助線仮説成る

空缶に鉄やアルミや秋の風

天の川より一滴の耳かざり

かつかつ書くベンゼン環の夜学かな

休暇明け包帯の子がもう一人

菊の香に乾けば消ゆる水たまり

瓢箪になれず糸瓜のぶら下る

みしみしと土龍に響く霜柱

白狐撃たれて倒る白きまま

進むレジ進まぬレジや葱を手に

数へ日にドプラー効果あるやうな

年の瀬の火事場帰りの消防車

厨には油の跳ねし古暦

飛行機の操縦室の初御空

買初の銀座京橋日本晴

幼子の首筋寒き春著かな

雪山に取り囲まれて弓始

大寒の海の魚や食べごろの

ティアラして雪のディズニーランドかな



 

2022-11-06

【2021落選展を読む 2】 11. 小西瞬夏 13. 青島玄武 14. 薮内小鈴 15. 仙保恭子 16. 綱長井ハツオ 19. クズウジュンイチ 20./21 ハードエッジ (&拾遺) ■俳句の外がわ ……上田信治

【2021落選展を読む 2(了)】

11. 小西瞬夏  13. 青島玄武 14. 薮内小鈴 15. 仙保恭子  16. 綱長井ハツオ 19. クズウジュンイチ 20./21 ハードエッジ (&拾遺)
句の「外側」が書かれている

……上田信治 


 ≫2021角川俳句賞「落選展」

 ≫【2021落選展を読む 1】

 

以前「成分表」にこんなことを書きました。

ぺたぺたと地を打つ鱏の尾鰭かな 岡田耿陽〉(昭和4年)この句はすごくよく書けていて、ぺたぺたする「尾鰭」のことしか言っていないことで、かえって本体である「鱏」がただそこに平たくあるというばかばかしさに届いている。俳句は、そこに書いていない何ごとかに届けば、ひとまず「書けた」と言える。 
そこに書かれていない何ごとか、すなわち「外側」があるかどうか──。

俳句の、数ある判断と受容の指標の一つですが「言いおおせて何かある」とはよく言ったモノで、自分は、たとえばそんなことを頼りに俳句を読んでいます。

 

(*)は一次予選通過作


11. 小西瞬夏 鳥慰(*) ≫読む

炎帝やうしろの蛇口あけつぱなし

炎帝」は全空間を支配しているけれど、自分のうしろには、開けっぱなしの蛇口がある(え、まさか「炎帝」の「うしろ」なのだろうか?それはそれでおかしい、鬼コーチみたいで)「炎帝」はその季語じたいが擬人化だから、句を甘く観念的に傾けるけれど「うしろ」という語をもってきたことで、「炎帝」=全空間との位置関係というナンセンスを発生させた。これは、発明と言っていいのでは(そして無意識かも知れないけれど、沢木欣一の〈塩田に百日筋目つけ通し〉が響いている)。

青空は穴石鹸玉しやぼんだま

このような理知や観念にも「外側」はあって、たとえば「青空は穴」というワンアイディアの余白を、季語をリフレインして何も述べずに乗り切って「そう思ってしまった自分(がここにいる)」という景を立ち上げることに成功、理に落ちていない。これもまた一つの発明。

鳥籠のすみずみ冷ゆる真昼かな
白魚のからだからまたからだかな
鳥交る伎芸天女のぼんのくぼ
一語一語泡立つやうに豆の花


13. 青島玄武 紫陽花の門 ≫読む

荒梅雨やときどき壁を作る人

壁を作る」はもちろん心理的な「壁」ととるべきなんだろうけれど「」の一文字があるために、いやおうなくざらっとした壁が想像され、結果、ときどき「荒壁」を塗り上げる困った人が発生する。「親子酒」のマクラを連想する人もいるだろう。

紫陽花の門に二人の巡査かな
十時から十九時までの作り滝

巡査」の紺の制服も「作り滝」の稼働時間も景物となっている。この人の世界はバカバカしく楽しい場所だ。


14.  薮内小鈴 遊覧船 ≫読む

立雛に影さす棕櫚の戦ぎける

棕櫚という異国風の植物と立雛の取り合わせ、モダンな金屏風のような絵柄で、さらに「」の一字があることで、安土桃山?とかそんなことを楽しく連想。

アイディアを押し込むようにして書くことで、内容と形式が摩擦して詩が発生することに賭ける、そういう書き手だと思っていたのだけれど、アイディアの充満振りはそのままに、それを俳句的美意識の範囲に押し込むことに成功しつつあると見受けた。

猫柳しづくは枝を行き渡り
さへづりの向かふ方角崖近し
天井の光りは反射目借時
竹落葉今来し人と入れ違ひ
蟻速し雲はいづこか穴が開き
坂道を芋虫よぎるずれながら
逆さまに八手の花を池の水
万国旗あふぐ冬帽もう一つ
ゆつくりと魚のほかも煮凝りぬ


15. 仙保恭子 感光(*)  ≫読む

これといふ竿を振り出す秋日かな         

何を言い出すのかという切り出し方、もったいぶり方が、ひょういっとはずみをつけて仕掛けを飛ばす、魚釣り竿の運動を思わせ、さらに「秋日」でカメラを引いて、釣り人のシルエットを見せるという、ずいぶんと技の効いた句。万太郎みたい。

新宿のビルの紙めく春の雨〉〈釣銭もやさしく貰ふ帰省かな〉〈落ち着かぬ風に花火の打ち上がり〉のあたり、やや常識的とはいえ、気分のよさはある。

門口のへうたんのこと話したき
秋光やとろけるやうに砂を盛り


しかしこういう、モチーフを「言う」ことにやや失敗しているような「この人は何を言っているんだろう」と思わされる句に、自分は「外側」を、俳句の味な部分を感じる。


16. 綱長井ハツオ 溢るる泥 ≫読む

農具市棒と呼ぶには太きもの
三月の鞄なんでも入りさう
冷房やリモコンに部品の継ぎ目
腰の下まで手を垂れて夏の果


俳句のぶっきらぼうなナンセンスは、創作意識のコントロールの「」に現実がある、ということをメッセージしているから尊い(青島さんの句にも感じたことだ)。

三月の鞄」というポエミーなモチーフに対する感想がそれ? 人間、手を垂れると「腰の下」までくるのはふつう!しかし「それ」を言うことは「意識の果て」とでも呼ぶべき、ぎりぎりの外側につながっているのだ。


19. クズウジュンイチ 泥鰌鍋(*) ≫読む 

荷車に春と箒を載せて曳く

」を「曳く」という修辞はロマンチシズム過剰なのだけれど「荷車」と「」という道具立てで、その感傷を、書く自分ではなく、荷車を曳く人の内面に押し込めた。手ぬぐいでほっかむりもするといいと思う。

たまに来て軽き列車や葛の花

たまに」というのは、1時間に一本くらいか。その列車を待っていたわけではなさそうなので、この人は駅ではなく、野山か里のどこかにいるのだろう。その列車が「軽い」のは、きっとそこに乗客の人影がまばらであることを、この人が知っているからで、つまりその列車のこの世のものとしての存在が軽いのだ。

人を拒む荒廃のイメージのあるという植物に花が咲くことで非現実味が加わる(飯島晴子や永田耕衣、あるいは下村槐太の「葛の花」の句を参照されたい)。からからと軽い音を立ててやってくる鉄道車両の、存在のさびしさとかわゆさが、それに照応している。

海荒れて栄螺の奥がふかみどり
日跨ぎの鍋に火を入る花椿
出来合ひのサラダを提げて花の雨
台風は速く間違ひ電話かな
豆苗の根が張る月の台所
行く秋やしなだれ折れてピザの先
ひさびさに会つて白葱焦げてゐる


昨年の「静かな野球」の俳句の言葉じたいを攻める書きぶり(これも強く外側を意識させること)からすると、だいぶ分かりやすいという気もするけれど、その分、ヒューマンな手ざわりがある。



20.21.  ハードエッジ プランA「御国の宝」≫読む プランB「汗の笑顔」≫読む

ざあざあと夏も近づくマンホール「プランA」
横にして傘をバサバサ梅雨の日々「プランB」

この擬音を交えた二句の「雑さ」に注目。「夏も近づく」の唱歌の歌詞の放り込み、梅雨の「日々」と急に意識の幅を広げる展開という、はっきり読みどころのできている句を、このように早い(速い)文体で書くことには、たぶん可能性がある。

梅雨明けの小学校が乾くなり
焼そばの人と相席掻き氷
捕虫網幼き兄を先頭に
地球儀と西日の部屋の全てかな



以下、拾遺です。選ばせていただきました。ご応募ありがとうございました。


5. 片岡義順 舞うて舞うてなんの微熱や蝶の夢 ≫読む

目刺し手にテレビと喧嘩するおとこ
 

6. 松尾和希 メキメキポッ ≫読む 

春さむし目ぐすりのキャップであそぶ


7. んん田ああ 死後に聴く落語の落ち ≫読む

嚙みあとに続く苺の後半部
ばけもののようでたてもの秋の暮
 

8.  恩田富太 さみどり ≫読む

半月や宿の蛇口の「をん」と鳴り
紫で輪郭を描くざくろの実

9. 伊藤波 ひかる ≫読む

春の長雨オルガンに木のこころ
蜂がきて手紙に蜂をかき添へる

10. 加藤絵里子  ちぎり絵 ≫読む

春の雨卵白ねむる冷蔵庫

12. 川島由紀子 間取り図 ≫読む 

キッチンの窓に星来て木の芽和え
水仙の咲いた日空が好きと母

17. 夜月雨 呼吸器不全 ≫読む 

天才と馬鹿の間で蜆汁
ひとりずつ消えていったら夏の宵
 

18. 垂水文弥 去ル・ド・死ネマ ≫読む

はんざきを見た晴なのに晴だから
こんなにも父は糸瓜を死後のため
石榴打ち落とせば西の見えにけり
綿虫のひいふう数へ切れぬかな

2022-05-01

【2020/2021「落選展」を読む3】髙柳克弘『涼しき無』のことも少し 上田信治

  【2020/2021「落選展」を読む3】13.14.ハードエッジ  16.松本てふこ 17.丸田洋渡 19.矢口 晃 20. 薮内小鈴

髙柳克弘『涼しき無』のことも少し
……上田信治

 

13. ハードエッジ プランA「小さき箱」 ≫読む
14. 
ハードエッジ プランB「明日を信じて」 ≫読む

落としても割れぬコップを今朝の冬
(プランA「小さき箱」より)
電柱が出水の町に灯を点す
白玉の熱きを冷ます氷水

(プランB「明日を信じて」)

上記の他にも〈トンネルを抜けて明るし春の雪〉〈波音は波の残骸松の芯〉〈満月やダム湖の中の取水口〉〈割箸の先に毛虫がくねくねと〉などが印象的で、合わせて読むと、作者がモチーフを、事物の関係から生じる面白さに定め、それを俳句的光景において実現していることが見てとれます。

作者は、多くの句で、彼が発見した「面白さ」を、明確に書き示している。このようなロジカルと言っていいアプローチで「面白さ」にフォーカスすることは、内容・意味といったものへの志向を強めます。これは、俳句の現在のトレンドの一つかも知れない(この話、16.松本てふこ「シャンパンタワー」に続きます)。

しかし自分は、書かれた意味に収まりきれないものがあると見える、次の二句に引かれました。

魚屋の雪ふるころの品揃へ
山一つ氷つてゐたる昼の酒



16.  松本てふこ シャンパンタワー(*)≫読む 

(*)一次予選通過作品

 
雨傘をくたりと開き年賀客
太ければたやすく透けて氷柱かな
うつむいてをれば楽なり黄水仙
ふきのたう赤子の握り拳ほど
あをぞらの届かぬ繭と思ひけり
区役所へ行く夢見しと昼寝覚
本棚に少し隙ある月夜かな
 

この50句の「面白さ」あるいは内容は、いわゆる「人間味」の範疇に収まるもので、その意味内容が、季語の措定するものにしっくりと収まっている。巧みです。

そういった「よく分かる」意味内容への志向を、前項で「トレンドかもしれない」と思ったのは、たまたま高柳克弘さんの最新句集『涼しき無』(ふらんす堂)をご恵投いただき、何ページかを読んでいたからで。

通帳と桜貝あり抽斗に〉〈ぶらんこを押してぼんやり父である〉〈忘るるなこの五月この肩車〉〈子にほほゑむ母にすべては涼しき無〉〈駅前に人は濁流秋の暮〉〈パンのみに生くると決めて卒業す〉〈ふるさとに舟虫走る仏間あり(『涼しき無』より)と、これは帯に引かれた句の一部ですが、自分が思うところの「意味内容の句」が並んでいます。

たしかにね……、たとえば飯田龍太と田中裕明の後期をメルクマールにして俳句を考えたとしたら、誰にでも分かるドラマチックな内容と詩的な結晶性の両立が、俳句の理想形だとなるかも知れない。知れないんですが、じゃあ、波多野爽波はどうなるんだとw

そこに、書かれた意味とか人生からはみだしている、透明で抽象的なものが含まれていないと、自分はそれを俳句として物足りなく感じてしまう。

そして、てふこさんにも、それがたっぷりと含まれている句はあるわけです。

からすのゑんどう散歩して遠くまで
この森を欲しがつてゐる時鳥


17. 丸田洋渡 銀の音楽(*) ≫読む

(*)一次予選通過作品

窃盗のかがやきながら鵙の空
鍵ひとつふたつここのつ天の川
あちらから明けてゆく湾鳥渡る
つやつやと眼の曲面や菊花展
冬隣遠くから目が透けている
石蕗の花歯のように建つ新たなビル
分銅を囲んでいたり冬の夜
ちかちかと独楽の負け合うからくりは


これは、意味内容と詩的結晶性に分ければ、結晶性にほぼ全フリしている50句で、抽象的なのですが、同時にきわめて具体的に掴まれた抒情性があって、そこに作者という主体との対話性が生まれている。

俳句の意味とか内容というものは、そんなふうに、書かれた言葉が直接には示していないところに、生まれるものでもあって。

窃盗のかがやきながら鵙の空

意味不明のように見えるかも知れませんが「鵙の空」と天を振り仰いだとき、そこにはもう「鵙」と「窃盗」がひびきあって、ピカレスク的なものへの「あこがれ」(そしてその貧しさへの「かなしみ」)が発生している。

冬隣遠くから目が透けている

「隣は何をする人ぞ」があるので、本人、室内にいると読みたい。二階の居室にいて、木が葉を落とした空が広く窓から見えている。そして彼は、自分が一人でいることを、強く意識している。

天という字の対称に厚氷
書くうちにふと明るくて窓は雪
春のたましいの全体的な腐敗
鳥なら今日は飛んでいた空花かんざし
薇のすさまじい渦人体にも
金盞花卵のような明るさに
一羽ずつ涼しい鳥の汀かな
火と汐の交わっている牡丹かな
プールから鳥見えて空羨まし


2020年の「落選展」には、何作か、これは作者のこの時点での最良の達成だろうと思わせるものがあって、丸田洋渡さんの「銀の音楽」は、その一つでした。ぜひ、50句全体を確認され、ここには「作者」がいる、ということを確かめられたい。


19.  矢口 晃 帰る家(*) ≫読む 

(*)一次予選通過作品

排泄のための筋力鳥渡る
雁渡るビルを林と想ふとき
秋空へ音叉の音の出で行かず
ひらきたる指にかげなき四月かな
春蔭やぐしやつと畳む乳母車
鳥雲に入る炒飯の紅生姜
鼻先に汗しあはせになるための


高柳さんは前掲句集のあとがきで「主題の明確な句が多いのは、私なりの挑戦だ」「生や死にまつわる根源的な主題に、俳人もまた向き合うべきではないか」と自身の考えを明らかにされているのですが、労働、生活、死といったものに向き合った作品を高柳さんも属する「昭和三十年生まれ世代の次の時代を作るべき」世代グループの一人として、先駈けのように書き続けてきたのが、矢口晃さんであることは論を俟たない。

ひらきたる指にかげなき四月かな〉〈鼻先に汗しあはせになるための〉もうワーキングプアの恨み節ではない、働く人生の(微量のアイロニーも含んだ)肯定を受け取って、佳句だと思いました。

バス停のひまはり園児より高し
流星の尾よ野ざらしの大仏よ


バス停があることで生じた背比べの複雑さ、「猿の惑星」のラストにも似た幻想といった遊戯性にも引かれました(もともとじつはユーモアを武器にした書き手なのだと思います)。流星の句、その尾を、大仏がつかみそうではないですかw


20.  薮内小鈴 蜂と切手   ≫読む

水中を藻にまみれたる枯蓮
ゆりかもめ退屈顔の前へくる
万両や夕暮にして晴れ渡り
濡れてゐる漫画雑誌と女郎花


この人も、自身の感じられた面白さを、俳句に落とし込むことを楽しんでいる。それはきっと俳味と言われる領域なのだろう。

立春のホームの先にひらく傘

これは、いいフレーズ、いい情景。
 

 

 

  >> 【2020/2021「落選展」を読む 1

 >> 【2020/2021「落選展」を読む 2】

 >> 2020角川俳句賞「落選展」

 


 

 


2021-11-06

20. ハードエッジ プランA「御国の宝」






20. ハードエッジ プランA「御国の宝」


啓蟄の首都に乗換案内図

吹かば吹け春一番の空の旅

特急と疎遠な村の日永宿

春昼の時報きこゆる港町

あまたある星のひとつが囀るよ

蝶が舞ふパンもケーキも無き寺に

口中に千金の泥つばくらめ

つばくらや雨ふる国の深庇

つかみ難しよ落るナイフも燕も

春雷にグラスを磨く女かな

がさごそと浅蜊のたうつ煮立ちかな

幼子は御国の宝桜咲く

熱飯に卵を落す朝桜

洗桶と洗濯籠と朝桜

村々の小学校の桜かな

山奥に海を知らざる山桜

山に山桜水力発電所

花衣母の衣桁も持ち出して

すたこらと花見弁当届けに来

ボンネット開けて桜を見せてやる

超然と歳月に立つ桜かな

ひとひらが落花の封を切らんとす

直列に並列に花吹雪かな

花ふぶき赤子は永久に泣き止まず

女房も一つ年取る桜かな

玉砂利の上に花見の忘れ物

蓋あけて天丼匂ふ花の雨

花の雨も滑りに来たれ滑り台

下水へと真つ逆さまや花の雨

咲き満ちて月にまみゆる桜かな

花疲れ回送電車通りけり

ざあざあと夏も近づくマンホール

モノクロのカラーの黴の声聞かな

眩しさの裸電球夏祭

金魚にするか花火にするか子の浴衣

浴衣着て母校に集ふ花火の夜

宿浴衣見よとばかりに干し連ね

古浴衣古き命を包むなり

蝉の穴地中より掘り来りけり

鱗粉の幽かな汚れ捕虫網

朗報の蟻か一目散に駆く

蟻の道お天道様が見てをられ

蟻でなきものを担ぎて蟻の列

夕立の天に捧げる観覧車

行く声と来る声秋の電話線

夕方は昼間の終り秋の暮

覗き見る点検孔の夜長かな

寒林の真ん中にゐる寒さかな

きゆつと鳴く踏んで幼き霜柱

初夢に初恋の人こんにちは


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21. ハードエッジ プランB「汗の笑顔」






21. ハードエッジ プランB「汗の笑顔」


春昼や糸の尾ながきティーバッグ

成田フライトインフォメーション地虫出づ

菜の花や明日ある如く咲き続く

初夏のガードレールの緑色

すでに子ら汗をいとはぬ五月かな

公園に木の椅子乾く薄暑かな

新妻の新緑の旅衣かな

新緑や白と黒なるチェスの駒

新緑を虫が好めり鹿も食ふ

青空も見えて若葉の雨宿り

梅雨空のグラデーションの濃きところ

横にして傘をバサバサ梅雨の日々

梅雨明けの小学校が乾くなり

夜明けなり決死の蝉が穴を出づ

早起にあれもこれもと夏休

日盛りの地下水を吸ふ木の根かな

アスファルトもコンクリートも日の盛り

炎天をのらりくらりと松が伸び

腐りつつものの融けゆく暑さかな

皺腹を掻つ捌きなば涼しかろ

時もまた滴一滴と滴るよ

抱きついて汗の笑顔をこすりつけ

きゆつきゆつとシャワーはいつも全開に

籐椅子の母に抱かれし古写真

うすぐらき蚊帳の昼寝を好みけり

監獄を襲ひし日なり巴里祭

消毒や日焼の腕の脱脂綿

弱虫も泣虫も来よ西瓜切る

お多福型スプーンで食ふアイスかな

掬ひたるアイスクリーム毛羽立ちぬ

ぽたぽたの氷菓の棒は急ぐべし

焼そばの人と相席掻き氷

捕虫網幼き兄を先頭に

土くれを穴から運び出す蟻も

蚊を殺し尽せし煙明易し

働いて働き蟻を全うす

ほんまやなものの五分で蟻たかる

蓮の花に自壊の兆なかりけり

向日葵にこれはバールのやうなもの

地球儀と西日の部屋の全てかな

夕焼が地下へ沈んでゆくところ

職業は寺山修司夜店の灯

交番に夜の向日葵を諭すなり

螢火や庭に埋めし宝物

命終のぽたりと落る蚊遣の蚊

これもまた一夜の命蚊遣の火

山奥の清き流れの紅葉かな

山々のはつきり見ゆる空つ風

汗かいてゐる鯛焼の哀れかな

埋火のありし空間純白す


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2020-11-07

13. ハードエッジ  プランA「小さき箱」

 13.  ハードエッジ  プランA「小さき箱」

トンネルを抜けて明るし春の雪

明暗の春よ根を張り芽を伸ばし

枯草の火力恐ろし畦を焼く

浅春の日だまりにある水たまり

耕して土の断面ばかりなり

天井に届く悲しみ涅槃絵図

春の風邪チクッとしますよと言はれ

消印に消されし切手雁帰る

破裂して風船消ゆる桜かな

波音は波の残骸松の芯

海へ出て五月の川の塩辛き

さくらんぼ美しき血を絶やさずに

干傘は開き蝸牛は渦巻いて

土嚢の如く金魚掬ひの子ら蹲踞む

咥へられいまはの空を行く毛虫

自らも穢れて哀し蠅叩

飛行場周辺の草刈つてをる

マンションの又も建ちたる西日かな

余生なほばたばた扇ぐ団扇なり

皿に置く豆腐すなはち冷奴

子の髪の匂ひ確かめ洗ひやる

流木に水着を干してキャンプの夜

爆発の大爆発の揚花火

よく遊びよく学ぶべき秋のチョコ

秋風に乗つて遠くへ行く虫ぞ

白も黄も春を知らざる秋の蝶

追ふ馬は何処へ行きしすいつちよん

王道を歩むが如く鹿の角

タクシーの出払つてゐる昼の虫

故郷の野分の様も少し映る

干柿は軒に熟柿は枝にかな

踏まれたる木の実の白き悲鳴なり

親子丼親子で食べて秋の暮

満月やダム湖の中の取水口

落としても割れぬコップを今朝の冬

ざくざくと葱を刻んで子沢山

煮凝の白身魚の平べつた

荒海の向ふは佐渡よ日短

ここよここよと鮟鱇の冷たき灯

煤逃のロマンスカーは鮭の色

大いなる赤子のあくび初日の出

八百万の神に輪飾り注連飾り

初富士の一句を得たる目出度さよ

負けてやる筈の双六勝ちさうな

湖は氷湖となつて日を拒む

魚屋の雪ふるころの品揃へ

雪折の現場近くを通りけり

水仙を取り囲みたる書斎の書

墨の香や探梅の日を心待ち

春待つや猫より小さき箱に猫