13. ハードエッジ プランA「小さき箱」
トンネルを抜けて明るし春の雪
明暗の春よ根を張り芽を伸ばし
枯草の火力恐ろし畦を焼く
浅春の日だまりにある水たまり
耕して土の断面ばかりなり
天井に届く悲しみ涅槃絵図
春の風邪チクッとしますよと言はれ
消印に消されし切手雁帰る
破裂して風船消ゆる桜かな
波音は波の残骸松の芯
海へ出て五月の川の塩辛き
さくらんぼ美しき血を絶やさずに
干傘は開き蝸牛は渦巻いて
土嚢の如く金魚掬ひの子ら蹲踞む
咥へられいまはの空を行く毛虫
自らも穢れて哀し蠅叩
飛行場周辺の草刈つてをる
マンションの又も建ちたる西日かな
余生なほばたばた扇ぐ団扇なり
皿に置く豆腐すなはち冷奴
子の髪の匂ひ確かめ洗ひやる
流木に水着を干してキャンプの夜
爆発の大爆発の揚花火
よく遊びよく学ぶべき秋のチョコ
秋風に乗つて遠くへ行く虫ぞ
白も黄も春を知らざる秋の蝶
追ふ馬は何処へ行きしすいつちよん
王道を歩むが如く鹿の角
タクシーの出払つてゐる昼の虫
故郷の野分の様も少し映る
干柿は軒に熟柿は枝にかな
踏まれたる木の実の白き悲鳴なり
親子丼親子で食べて秋の暮
満月やダム湖の中の取水口
落としても割れぬコップを今朝の冬
ざくざくと葱を刻んで子沢山
煮凝の白身魚の平べつた
荒海の向ふは佐渡よ日短
ここよここよと鮟鱇の冷たき灯
煤逃のロマンスカーは鮭の色
大いなる赤子のあくび初日の出
八百万の神に輪飾り注連飾り
初富士の一句を得たる目出度さよ
負けてやる筈の双六勝ちさうな
湖は氷湖となつて日を拒む
魚屋の雪ふるころの品揃へ
雪折の現場近くを通りけり
水仙を取り囲みたる書斎の書
墨の香や探梅の日を心待ち
春待つや猫より小さき箱に猫
0 comments:
コメントを投稿