2020-11-07

14. ハードエッジ プランB「明日を信じて」

 14.  ハードエッジ プランB「明日を信じて」


寧楽と書けば唐天竺や春霞

本降りに暗みたりけり春の雪

耕して鍬ねつとりと重たけれ

ビル裏に配管の巣や燕来る

涅槃絵図涙ながらに褪せゆくも

仏生会桜餅など良からずや

目の玉は二つのままに蝌蚪蛙

ざくざくと浅蜊が浜と申さばや

土手ゆけば子猫の見ゆるバルコニー

生家跡には一面の春の草

ほのかなる匂ひの花の首飾り

古茶といふ音の響きも古茶らしく

電柱が出水の町に灯を点す

白玉の熱きを冷ます氷水

ポンと抜くビール家ではプシュと開け

ゆるゆると起きてシャワーを昼餉前

万緑の中に危ない橋かかる

秋冬の愁ひはなけれ蝉の声

割箸の先に毛虫がくねくねと

埒もなく旅の疲れの籐寝椅子

吾輩は西日に立てる赤い箱

明るさの明日を信じて火取虫

遠花火虫けらどもは闇の中

切株を囲む走り根露けしや

呪文の如くチヨコレイトや露地の秋

引かれ行く牛の貫禄秋桜

鵙鳴くや泣き出しさうな空の色

畦をゆく白き軽トラ雁渡る

秋の灯の赤き点滅塔高し

団栗を転がしてみる机かな

流星や奇跡はある日突然に

真つ暗な紅葉の宿に月もなし

行く秋や海に広がる河の果て

金賞の菊の余生と日向ぼこ

膝に来る冬の日差や猫も来て

おしやべりの子に耳貸して毛糸編み

山一つ氷つてゐたる昼の酒

みづからをなきものにする焚火かな

無残やな風邪の母から引き離され

白紙へと戻る術なき古日記

行く年のその足音を聞かんとす

友らみな老いて目出度し年賀状

初富士の大浴場を響かせて

歌留多取る水仕で冷えし手が早し

卓の水仙縁側の福寿草

結局は初案に戻る炬燵かな

木のあはれ草のあはれを雪に消す

火事跡の黒き柱や雪女郎

梅匂ふ医者の卵の徹夜明け

暖かくなればと思ふことばかり

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