2021-11-06

10. ちぎり絵 加藤絵里子






10. ちぎり絵 加藤絵里子


さそわれて道化師となる春隣

花曇り真顔の並ぶ宗教画

桜舞う孔雀の競い合うように

パン生地ふくらんで春雷遠ざかる

陽炎になりきれぬ僕とあの日の樹

春の雨卵白ねむる冷蔵庫

夜桜は頬の痩けたる聖画かな

春の暮足から先は影法師

目上への絵文字に悩む昭和の日

碧天の編曲されて定型詩

新緑のただただ過ぎる車窓かな

最初からウスバカゲロウここにいた

爪をかむ癖の少年みずすまし

黒南風や口元みえぬまま会釈

真夜中の心理テストや熱帯魚

ハンカチの刺しゅう葉月の在来線

万物は一点より生れ大夏野

この穴をすすめば蝉の生誕地

効果音に騙されてきた敗戦日

無条件降伏 催眠術さめる

道があるただそればかり描きけり

秋の川祖先はみんな同じ雨

人間の輪郭淡く震災忌

長き夜の円周率を語る人

秋扇完結編から先に読む

ちぎり絵のわずかな余白十三夜

古本の書き込み詳し秋うらら

盛り上がるばかりの序曲秋の雨

秋声や木版画の雨長きこと

前脚の小さき恐竜みみず鳴く

ミニチュアに鍵穴のあり秋澄めり

自画像の目のクマの濃し神無月

天と地の間はおよそ砂嵐

まなうらの小宇宙より冬に入る

石けんを泡立てながら時雨きく

影だけのパフォーマンスや雪催い

静脈の標本のごとく冬木立

水ぶくれ毛玉まみれでも捨てられず

恋人の寝息にあわせ句点ふる

噺家のようにやってくるスズメ

暖冬を縫い合わせてゆく環状線

思惟の向く先はきまって北極星

石鹸のすりへるように蝶凍てる

寒椿あたためている傘の中

木目の避けて十年後の余震

大都市の湿疹として春の雪

春闌けて縄文土器の血脈

遠近法あやうくさせる春満月

人生に踊り疲れて桜になる

晩春にかえろうとする尾てい骨


加藤絵里子(かとう・えりこ)1987年10月10日生まれ。2009年より「山河」俳句会にて作句を学び始める。「山河」内にて2012年度渓流賞受賞、2013年度山河賞受賞。2014年より現代俳句協会所属。現代俳句協会青年部委員。

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