2021-11-06

11. 鳥慰 小西瞬夏 






11. 鳥慰 小西瞬夏 


立膝の少年とゐる冬の鳥

遠くより頭痛水鳥のこゑ乾き

水鳥の列先頭におとうとよ

街聖夜硝子器触るる音止んで

一本の足凍蝶を跨ぎけり

海鳴りや寝返りのたび母の冷え

寒北斗尖りしものをとがらせて

刺繍針引き返しをり冬野中

鳥籠のすみずみ冷ゆる真昼かな

薄氷や折鶴の反りはじまれり

折りたたむ言葉磯巾着と揺れ

うすばかげろう少年の血のあをくあり

夜の底ひ母の角巻畳まれて

青き僧より春の水零れをり

塩舐めて舌の尖りし三鬼の忌

鞦韆のてのひら錆臭き生家

口中に舌の広さや春の水

風光る母のてのひら羽ばたけば

葉脈の凸凹花虻すれちがひ

黒猫の尻尾おとろふ花の昼

落書きの荒しシャッター街早春

白魚のからだからまたからだかな

少年の留守鳥の巣に鳥がゐて

春空の包んでゐたる造船所

銃眼の奥のまなざし春疾風

白茶しろ黒くろ焦げ茶猫の恋

鳥交る伎芸天女のぼんのくぼ

春浅し耳朶をまどろみの芯

真つ白き頁めくれば亀鳴けり

阿と開きしままのくちびる花の奥

仮設けぶる真白き蝶に連れられて

青空は穴石鹸玉しやぼんだま

蝶落ちてインク広ごる紙の束

一語一語泡立つやうに豆の花

蝶の昼秒針赤くまたたけり

文机の塵の増えゆく朧の夜

春眠の終はりし人体解剖図

耳朶に息のかかりし蛍籠

星蝕やひかがみしづかなる初夏

透明な壁の林立パセリ噛む

階段の裏の茫々雷兆す

炎帝やうしろの蛇口あけつぱなし

トルソーの薄き埃や夏の果

箱庭のちひさな母につきあたる

青い目の人形八月の姉妹

短夜の睫毛にみづのあつまれり

水馬とび一日の薄まりぬ

戦ひの近づいてゐる蝉の穴

標本箱騒がし八月十五日

花火果つひとさし指の重さかな


小西瞬夏(こにし・しゅんか)1962年生まれ。岡山市在住。『海原』同人。

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