12. 間取り図 川島由紀子
息かけるちびた鉛筆春の空
足の指ひろげて掴む春の水
朝焼けの余寒ポロロンはじく指
髪切って手ぶら足ぶら風二月
二月の木恐竜少女来て叩く
てのひらに初蝶乗せて風乗せて
初蝶の窓にこつんと初キッス
キッチンの窓に星来て木の芽和え
海亀の卵濡れてる春の星
億光年の宇宙の話木の芽和え
木の芽吹くガラスを丸く吹く工房
木の芽山鬼と並んでおにぎりを
藤咲いてわたくしが雲だった頃
朝からの雨を明るく花水木
柳絮とぶ猫も私もほどけゆく
キッチンより近いコンビニ燕来る
春ショール翼になって海の風
プリムラプリムラ小舟に立って釣り人は
春キャベツ青い皺持つ哲学者
設計図くるくる巻いて燕来る
ハナニラよ昼は見えない青い星
陽炎は我が掌に野の草に
咲き満ちて黒くなるまで紅椿
新しく昨日今日明日青木咲く
凸凹の口論デコポン転がって
十二単森の小鬼の咲き登る
茶摘唄肺葉脈のうすみどり
恋ひとつ沈めて深く十二単
春の雷多肉植物抱く女
楓の実飛び立ちそうな空の色
南仏の青を一本引いて夏
みずうみの出窓の傷と若葉風
豆ごはん炊いて活断層の上
間取り図に小窓天窓夏燕
透き通る新玉葱と魂と
若葉雨仔犬の歯形残る靴
紫蘭咲く知らない人と会う明日
トロンボーン伸びて縮んで青葉闇
少年のすね毛が生えて走り梅雨
海光る羽化する青筋揚羽蝶
紫蘭咲く地下のアトリエ海の窓
立てかけてサーフボードと犬のシャツ
マスカット外輪船が飛沫あげ
もがり笛小鬼の少女駆けてくる
セーターの胸に流木ⅮⅠY
宇宙船来てる木枯らし来てる夜
雪の朝ミントキャンディ舌の上
海光の翼ひろげよ雪の朝
春隣ミルクレープのミントの葉
水仙の咲いた日空が好きと母
川島由紀子(かわしま・ゆきこ)「窓と窓」常連、「びわこ句会」代表。第一句集『スモークツリー』(2010年)、『阿波野青畝への旅』(2019年)。
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