2020-11-07

16. 松本てふこ シャンパンタワー(*)

 16.  松本てふこ シャンパンタワー(*)

初夢のまづ雨音の激しかり

吹き抜けのロビーに待てば淑気かな

雨傘をくたりと開き年賀客

一行にはぐれ眺めて猿回し

成人の日の薬湯のよく濁り

下野の雪くきくきと踏み鳴らす

抱きやすき形のポット避寒宿

凍傷の爪がはちきれさうに赤

太ければたやすく透けて氷柱かな

待春の皺がヒジャブの眉間にも

初不動弊社の社名長きこと            

寒明けて靴箱の靴みな遺品

うつむいてをれば楽なり黄水仙

納税期茶房にフィンランディア流れ

如月の水面まどろむダムであり

ふきのたう赤子の握り拳ほど

読経の声大き嫁なりお中日

春宵のなぜかシャンパンタワーかな

腹にくる辛さなりけり葱坊主

旅いつも尿意と共に暮れかぬる

虚子の忌の屁の確かなる臭ひかな    

からすのゑんどう散歩して遠くまで

種蒔の缶チューハイを傍らに

行春をずつと手洗ひしてゐるよ

ぼうたんに風強すぎる朝かな

金魚玉間取り図のみな広さうな  

穀象によぢのぼるべき山ひとつ

御堂筋あたりも若葉冷ならむ

あをぞらの届かぬ繭と思ひけり

薔薇園をのつしのつしと見て回る

瓜番は夜行バスにて来たりけり

区役所へ行く夢見しと昼寝覚

真つ白にはりつめながら百合ひらく

火取虫不意に夜空へはみ出せり

この森を欲しがつてゐる時鳥

冷麦の歯ごたへゆるく昼休

鯖鮨や旅の予定の大ざつぱ

ハンモックおづおづと尻しづませて

体操に傷む畳や秋立てり      

本棚に少し隙ある月夜かな  

月光に手相広げて地図のやう

靴紐の踏まれぼろぼろ白露かな

秋祭みな酩酊の貌であり

栗飯のしほからきことばかり言ふ

蛇穴に入る重さうに衣紋掛

エキスポシティ背高泡立草ばかり

ささやかに果肉蔵せし酢橘かな

刈田にて兄ですとのみ名乗りたる

ハロウィンや丸く飛び出るピザソース

献木の札と十一月の幹


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