2020-11-07

17. 丸田洋渡 銀の音楽(*)

 17.  丸田洋渡 銀の音楽(*)

洞窟のような休日いわし雲
新涼や部屋を外から見ていたり
窃盗のかがやきながら鵙の空
鍵ひとつふたつここのつ天の川
あちらから明けてゆく湾鳥渡る
磨かれて空うつくしく秋の玻璃
百菊や空は一頁の重さ
つやつやと眼の曲面や菊花展
連雀やゆっくりまわる手信号
冬隣遠くから目が透けている
心臓の磨かれている冬の浜
寒林を喇叭の風のほしいまま
石蕗の花歯のように建つ新たなビル
分銅を囲んでいたり冬の夜
天使と銃どちらかが勝つ雪催
ちかちかと独楽の負け合うからくりは
白鳥と白い硬貨を並べけり
天という字の対称に厚氷
書くうちにふと明るくて窓は雪
雪の世の一瞬にして一変す
空間に斧おいてある雪のはなれ
寒鯉の腹寒鯉にひっかかる
蠟梅の光のなかの瑕に触れ
選ばれてある憎しみに冬薔薇
太陽の啼きごえ洩れて春の沼
春のたましいの全体的な腐敗
鳥籠や空の疲れのうつくしく
鳥なら今日は飛んでいた空花かんざし
傾いてお礼言われる春の暮
春の闇紙で書きとめるやりとり
たんぽぽや今もみずみずしい戦禍
薇のすさまじい渦人体にも
花まみれ生きていくこと仰向けに
書くように話してしまう初桜
桜の向こうをデジタルに補完している
切れ目から水垂れてくる花曇
金盞花卵のような明るさに
一羽ずつ涼しい鳥の汀かな
鳴りながら風鈴吊られいたりけり
雲の峰この世の本を読みつくせず
皿の上に声載っている夏霞
死にも似て泉に遠くまで見える
水に耳ひたせば銀の音楽して
火と汐の交わっている牡丹かな
翡翠の前傾に気づくことなく
糸とんぼ大人と子ども遊びつかれ
陽のようにあるいは影のように滝
一枚の蝶かと思うヨットかな
光にも生と死はあり風知草
プールから鳥見えて空羨まし

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