2021-11-06

19.泥鰌鍋  クズウジュンイチ






19.泥鰌鍋  クズウジュンイチ


荷車に春と箒を載せて曳く

力感の蝶が日向に翅を開く

さへずりが滑つてみづがめを伝ふ

固く閉づる大蛤に火をまはす

海荒れて栄螺の奥がふかみどり

明るみに蜷の片寄る水路かな

鳥帰るトスの手首のやはらかく

日跨ぎの鍋に火を入る花椿

はなぐもり般若心経すべてにルビ 

出来合ひのサラダを提げて花の雨

囮鮎鼻が潰れてをりにけり

島国に蚯蚓まばゆく身をよぢる

サテン地のマンボが汗に濡れてゐる

大風が抜けてゐるなり海の家

泥鰌鍋けふ東京の弱い雨

蚊の脚のくるんと夜が更けてゐる

立葵豚肉焼いて裏表

明け方のプールに鳥が来てまはる

天牛のまだらを雨の流れ落つ

たまに来て軽き列車や葛の花

朝顔を伐りて利休の野点かな

茄子の馬作りて門といふほどの

かまきりの筏のやうに揺れてをり

取皿の青く揃つて今日の月

日の崖を秋蝶が諍つてゐる

田を人が去つてまつすぐ鵙の声

台風は速く間違ひ電話かな

犬の眼に月が滲んでよく歩く

昆虫の恋はむきだし秋の雲

豆苗の根が張る月の台所

うつとりと病気の鳥や秋の虹

行く秋やしなだれ折れてピザの先

色鳥に煙のやうな鳥混じる

秋の夜の甘食こぼれつつ割れる

十一月や鳥の名を云ひさして

凩のカットモデルが夜に来る

はつ冬の穀物食ひながら訛る

短日の部屋を老女とビスケット

手袋が夜を遊んでゐるかたち

ふくろふに見らるるうしろすがたかな

枯野より出でて二人の声そつくり

綿虫は行き交ふ壁を向く食事

寒禽の空を厭うてをりにけり

蛹より霜のこぼるる雑木山

キャラメルをにちりと噛んで冬の虹

うつすらと煙つて鷹の遠さかな

ゆつくりと仮面をはづす室の花

北吹いて部屋に夜越しの茹で卵

検針の腰に冬日の差してをり

ひさびさに会つて白葱焦げてゐる


クズウジュンイチ 1969年群馬生まれ。「奎」所属。NPO法人主宰。

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