18. 垂水文弥 去ル・ド・死ネマ
見て触れてみな置き去りに竜の玉
狐火を見せむと男連れ回す
悴むはエウロパの塩買うてより
いつからか海の匂ひの探梅行
碧梧桐忌の孔雀に誰も触れられず
木馬みな瞠いてゐる二月かな
雪解野に母は無辺の光なり
夕闇に蝶幾億の息づくか
金星を崇める村の野焼かな
過呼吸が菫の脇にうづくまる
声帯を使はぬ昼や苜蓿
大いなる闇あり女王蜂と呼ぶ
春の風邪塔を孤独と思ふ距離
うたごゑのかそけくひびく椿かな
緑陰に指環を持たぬもの集ふ
はんざきを見た晴なのに晴だから
火より濃く母より淡しカーネーション
みづのばら散りたる薔薇と触れ合ひぬ
短夜のアイスピックの光かな
赤い蛇白い女とすれ違ふ
くちなはは眼に沼をもつてゐる
東京を愛して真つ青なハンカチ
レコーディング・スタジオ夏痩が集ふ
朝廷にゐさうな光かたつむり
滝壺に金剛力の滝響く
自惚れのかがやきに咲くダリアかな
蝙蝠や黙して進む救急車
大西日海へ真つ逆様に鳥
夕闇へ八月の木を抱きにゆく
生身魂やはり末子でありにけり
踊り子の手がかりそめの鳥となる
稲妻や男と夜汽車すれ違ふ
目瞑れば鬼城忌の海迫り来る
こんなにも父は糸瓜を死後のため
父歩くはやさ雁鳴くとほさ
石榴打ち落とせば西の見えにけり
くさびらは独語のしづけさに増ゆる
サフランや雨の映画を出れば雨
山茶花やくちびる鳥の名をこぼす
遠火事が網膜に囚はれてゆく
綿虫のひいふう数へ切れぬかな
凍蝶の白観音の骨の白
雪に降る雨のやはらか信子の忌
鴨いつもランプを夢に見て眠る
ストーブのあたり魂魄ゆらゆらと
肉食の後のマスクや艶めける
冬景色より三脚を持ち出しぬ
合鍵をやる梟をさがしけり
狼とおんなじ星を見てをりぬ
あさきゆめみし白鳥に夕の来て
垂水文弥(たるみ・ふみや)平成15年生まれ
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