2021-11-06

17. 呼吸器不全 夜月雨





17. 呼吸器不全 夜月雨


春眠や人間失格枕にし

堅雪に突き刺さったままピンヒール

CO2吐き切っただけ浮氷

殺さずに生かしもせずに春火鉢

重き肺吸った致死量沈丁花

春一番だから嘘だと言ったのに

ぬるま湯で溺死亀鳴く声を聞き

正しくも間違ってもいる涅槃雪

吹き込んだ劣情破裂しゴム風船

四月馬鹿正しい事しか言わないで

常温でしあわせ呑んだ桜漬

細胞が煮え立つぬるさ春の闇

刹那だと知った頃には鳥曇

逃げ水が追いかけてきて平均台

「また」という音の軽さや暮の春

いたずらに飛び降り自殺半仙戯

天才と馬鹿の間で蜆汁

毛虫焼く煙空飛ぶ夢を見る

生きようと決められぬまま夏隣

嘘をつくだけの強さや蛇苺

殺せない嗚咽を埋めた芒種の日

何者に成れと云うなよ送り梅雨

蜘蛛の囲に現身捕られ吊るし首

ひとりずつ消えていったら夏の宵

明易し仕舞いそびれた裁ち鋏

まっさらに成れぬと知って五月闇

立葵諦めてほら手を挙げろ

踏んづけた影の上から蝉時雨

遺書ひとつ抱えて向かう夏の海

行く先も決めず斑猫追いかけて

一粒の夜光虫と化す意地もなく

棄てられぬ空蝉潰す七回忌

何事もなかったように秋の水

残飯を撒き餌に残る蝿を狩る

後ろめたさを隠しては秋日傘

投げ出した中指の先蝗食う

使わずに折れた口紅吾亦紅

狼のまつりにこの身並べたり

消えた人憎めど秋の空は白

尺骨の傷に沁みるやそぞろ寒

何気ない顔冬隣の六畳間

朴落葉踏んで行く人さえ居らず

指切りや手袋挟む自己保身

雪雑り泣いた女の疎まじさ

名の木枯る血肉の下の同じ骨

人の手を嫌う癖して炬燵猫

水に入る足に絡まる流黐

冬ざれや歪に伸びる君の影

隼を睨み返した飛べぬ鳥

湯ざめした現身抱いて独り寝る


夜月雨(よづきあめ) 1993年生。書くことが好きで、生きることが苦手なアスペルガー。空気は読まない。ブログ等々で、創作しています。
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