19. 矢口 晃 帰る家(*)
排泄のための筋力鳥渡る
鍵括弧なき流燈の声なりけり
流星の尾よ野ざらしの大仏よ
コスモスや指長くして手を洗ふ
雁渡るビルを林と想ふとき
ねこじやらし出社時間を過ぎてゐる
秋空へ音叉の音の出で行かず
いまどきのことばづかひの秋遍路
巻き戻しまた巻き戻し夜学かな
残り湯のまだ冷めやらぬちちろかな
風音はさすらふ蛇は穴に入る
山肌のおよそ岩肌曼殊沙華
使ひ捨てカメラ巻きをり菊潰ゆ
牛乳の白の賑やか冬の朝
次々と聖夜へ上がるエレベーター
しんしんと画家は枯野になつてゐた
犬の尿枯木の影を濡らしけり
初雪や音を溜めをる貯金箱
わが裡の枯木の見ゆるレントゲン
空つぽの空間に滝凍てにけり
家族ある人は帰りて年忘
サウナ出て春の日向に乾きけり
うぐひすや恵み寡き募金箱
先生の白衣やエイプリルフール
菜の花や帰る家ある子供たち
カセットのB面は社歌あたたかし
盤石の上に家あり実朝忌
夜桜のまはりに歪なる区画
春蔭やぐしやつと畳む乳母車
たんぽぽの絮吹く腹の出でにけり
新社員波のごとくに頷けり
どこかまでつづくあをぞら桜ちる
耕せば筑波の虫のおどろきぬ
ひらきたるゆびにかげなき四月かな
かぎろへり発掘の土盛上げて
噺家のやうに地虫の出でにけり
蒼天や無辜の桜の散り初めぬ
制服に飼犬の毛や入学す
はんなりと丘ある枝垂桜かな
池しづか西へ西へと蝌蚪動く
鳥雲に入る炒飯の紅生姜
画用紙のたつぷり白し夏始
バス停のひまはり園児より高し
シャワー浴び徹頭徹尾草食系
漣をまとひてプールより上がる
鼻先に汗しあはせになるための
蛇口から水垂直に夏を打つ
ががんぼに影にんげんのやうに影
金魚より金魚の池の老ゆるなり
ひまはりの唯々諾々と並びをり
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