14. 薮内小鈴 遊覧船
猫柳しづくは枝を行き渡り
かすかにも皴の深まる霾晦
立雛に影さす棕櫚の戦ぎける
雀の顔いくつか映し水温む
腕時計吊るしてゐたり春の風邪
箔入りの紙めく窓や牡丹雪
紫木蓮何をするでもなく座り
春風に音階をなすビルの丈
さへづりの向かふ方角崖近し
寝台列車内に朧のあまたなる
麦青む算盤ずつと鳴り続け
天井の光りは反射目借時
莢割ける豌豆に歯を揃へけり
竹落葉今来し人と入れ違ひ
杖でなく傘持ちあるく青嵐
皿に枇杷宙に枝ごと揺さぶるを
両側の家並すすけ夏の富士
喧騒を硝子の外にアイスティー
蟻速し雲はいづこか穴が開き
ひとつ咲き雨に捩花消え去りぬ
絶えし蛾の白さを浮かべ二階かな
夾竹桃線路の向う漠として
卓といふ四つ脚ずんと雷響く
累累と橋の上にも夜店あり
みどりなる川を離れず避暑の旅
雌日芝のサンバと見れば秋茜
生身魂同士電話をはるかより
坂道を芋虫よぎるずれながら
鮒釣の背中に九月来てをらず
酢橘切り敷詰めてのち夢つぶさ
鶏頭が路面の罅をくぐりもし
雨冷のレコードに火の点る音
山牛蒡寄せて色鳥寄せにけり
転がるや香り散ずる林檎かな
浅漬市手つなぎ甘さなき齢
白地図の線のまぶしく末枯るる
秋雨にしたたか濡れし電車着く
逆さまに八手の花を池の水
大きめな身振でかたり朴落葉
万国旗あふぐ冬帽もう一つ
ゆつくりと魚のほかも煮凝りぬ
鷹飛んで嘴の黄の紛れなく
収めるによき箱見つけ暮易し
料理屋の冬を統べたる鹿の角
初空へ閑かにひらく自動ドア
てんてんと塀の上に糞山眠る
投銭の響きをかさね冬桜
暖房をとほく本棚あるばかり
三日月に寒芹そそぎ溢れしむ
枯芭蕉遊覧船のすべり出づ
薮内小鈴(やぶうち・こすず)1968年生まれ。2016年「クンツァイト」入会。2017年詩集『サルの国』(港の人)刊行。自作句twitter https://twitter.com/kosuzu_haiku
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