2021-11-06

15. 感光 仙保恭子





15. 感光 仙保恭子


新宿のビルの紙めく春の雨

剪定の痕のうすれに梅しづか

卒業の髪に花挿し乗り継げる

またひとり大人のこゑやチューリップ

物種の袋にいつか貝の殻

ふらここの一振れごとに息の澄む

乗り降りの作法いつより養花天

ふと鳥も風に流され竹の秋

名札まだ固く光るや入学児

とまどひは枝の細きも鳥の恋

きのふ来しやうに燕の来てゐたり

薄氷や芥に生れて棲む密か

草芳し指反らし駒打ち込めり

行く春や持てる荷として二つ三つ

デージーを入れて揃うたと想ふ

手のひらに脈打つ海や夏近し

淡彩の額の奥行きががんぼの

川風やただ揺れてゐる花潜

胸張つて鳥往くところ走梅雨     

祭礼やここに実生の木を植ゑて

まだ外にゐて構はない冷奴

遠巻きにまづは金魚を見てゐたる

炎昼やもの喰ふ鳥の目を畏れ

手鏡にあるは昼寝の母なりし        

サンダルや一人で遊ぶ日の盛 

昼の月高く守宮の静かなる

ラムネ玉星を数ふる仲にして       

釣銭もやさしく貰ふ帰省かな

鳩の餌も五穀にしたる秋祭

落ち着かぬ風に花火の打ち上がり

これといふ竿を振り出す秋日かな         

新涼や叢深く見えはじめ   

門口のへうたんのこと話したき

ひと盥ゆすぎ了へたり秋簾

ぎりぎりと皮脱ぐ虫や月の暈

秋光やとろけるやうに砂を盛り

野仏の雨の垂るるを小菊かな

柿ひとつ剥けばひとりの時間来る

三人のそろそろ無言松手入

刃を研げば水を吸ふ手や暮の秋

折れにくき茎となりたる夜寒かな

つばくらの巣も堅固なり冬館

襖にもゑの具の跳んで木偶屋敷      

搗きたてをくるむ暦や冬の月

母衣かけて市待つ人の冷えわたる  

つくり手がつつんでくれし冬日向     

乗合ひの声かけ合へば細雪     

話す人欲しや冬将軍来たり

焼藷や分け合ふたびに人の来て

草色のノートで励む十二月


仙保恭子(せんほう きょうこ)1967年東京生まれ 。2003年『クンツァイト』入会

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