中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜
ちあきなおみ「雨に濡れた慕情」
ちあきなおみ「雨に濡れた慕情」
憲武●という訳で今週から、ちあきなおみの一番おススメという企画です。ぼくはこの曲ですね。「雨に濡れた慕情」。
憲武●この曲、ちあきなおみのデビュー曲なんですね。1969年です。1969年というと、欧米ではロックフェスの「ウッドストック」があり、ビートルズは「アビイ・ロード」でラストを締めくくり、入れ替わるようにレッド・ツェッペリン、キング・クリムゾン、グランド・ファンク・レイルロード、オールマン・ブラザーズ・バンドなどが次々とデビュー。わが国では、由紀さおり「夜明けのスキャット」、いしだあゆみ「ブルーライト・ヨコハマ」内山田洋とクールファイブ「長崎は今日も雨だった」などがヒット、アンドレ・カンドレ(のちの井上陽水)が「カンドレ・マンドレ」でひっそりとデビューと、実に混沌とした状況下でのデビューですね。
天気●そんななか、ボジョー、なわけですね。
憲武●ちあきなおみの情感を込めた歌い方とジャズアレンジがいいんですよね。ピアノとギターの掛け合いが特徴的です。一部ではジャズ歌謡と呼ばれてるらしいです。
天気●ジャズ? ピアノが歌の合間にフレーズを挟んでくるからですかねえ。ベースはこの頃歌謡曲に多かったエイトビートだし、どこをとってもジャズじゃないような。
憲武●その頃はジャズという言葉の応用範囲は広かったようです。
天気●雰囲気ということですね。歌謡曲語彙。数あるブルース、淡谷のり子をはじめ曲名にブルースの入った曲にブルースは1曲もないのと同じ。これは日本的換骨奪胎。悪いことじゃないです。
憲武●発売日が6月10日で、梅雨入りを意識してたんでしょうかね。雨降りの頃、よく流れてた印象が強いんです。当時、ぼくは小学3、4年でしたけど、学校の帰りかなんかに、道にトラックが止まっていて、運転席のドアが開いてるんです。そのラジオかテープかで、この曲が聞こえてきて、ちょうどサビの部分の「すーきでわか~れた~」のところだったんですが、そのちあきなおみの高音と、エンジンのアイドリング音と濡れたアスファルトの上の油膜の虹色が印象的に記憶に残っていて、今でも好きな曲なんですね。
天気●設定が揃いましたね。なんか凝った映画っぽい。
憲武●ぼくは、ちあきなおみというと、「儚い」というイメージがあって、とても個性的な歌い手だと思ってます。もっと歌っていてほしい感じです。
(最終回まで、あと873夜)
(次回は西原天気が推すちあきなおみの1曲)
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