2020-02-02

【空へゆく階段】№23 解題 対中いずみ

【空へゆく階段№23 解題

対中いずみ


「ゆう」4号には、「新季語」という田中裕明の小文が載っている。

「二月十三日、淀川の鵜殿というところへ早春の蘆焼を見にいきました。三三五五あつまって淀川の土手に上れば、すでに大勢の見物の人たちがいます。見物人には三種類あって、カメラマンとバードウォッチング、そして俳人。俳人が一番ものしずかであるように思いましたが、気のせいかもしれません。さてそのあとの句会で問題になったのが、蘆焼は季語か否かということです。歳時記には載っていませんが、野焼・山焼と同じ春の季語としてもおかしくはないはず。何十年か先の歳時記に備えて今のうちに例句を作っておきましょうと話をしました。どういう手続きで季語として認知されるのかという質問もありましたが、手続きは一つしかありません。良い句を作ること。」

蘆焼はいまだに春の歳時記には載っていないが、裕明は「鵜殿蘆焼」の前書きをつけて〈蘆焼くや鳥はこの世のこゑをだし〉を『夜の客人』に収録している。

4号の裕明句は以下の通り。太字は句集収録句。

  春寒し

供待にひとりしぐれの明るかり

桃咲きて前触れなしに来るが友

高齢をうやまひ地虫出でにけり

蒲公英やひとり小さき日本人

すすみゆく畦火に人のかかはらず

アトリエに白布ひろげて春寒し

 鵜殿蘆焼
亡き人にまじりて蘆を焼きにけり

蘆焼くや鳥はこの世のこゑをだし

葦原といふ鳥の巣を焼きにけり

蘆を焼く長き濤音おもひけり


田中裕明 ゆうの言葉

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