2020-02-02

【週俳12月の俳句を読む】ひとりではなく 宮本佳世乃

【週俳12月の俳句を読む】
ひとりではなく

宮本佳世乃



湯豆腐の豆腐揺らして遊びけり  井口加奈

ひとりではなく、ふたりで過ごすゆうらりとした時間。ふたりの関係はいま始まったばかりではなく、少しこなれた頃の寄り添い方。

旅に来てシャンプー安しシクラメン  松本てふこ

旅行連作10句。それほど遠くない海辺への小旅行で、ふらっと温泉に寄った。一回分のシャンプーは安いけれども、おそらくは使いきれない。赤いシクラメンが日常感を醸し出し「安し」を引き立てている。

神様がゐないみなとみらいライン  浅沼 璞

この10句は一句目から十句目までがことばと音で連結されている。神の留守→神様がゐない→きしりきしり→蓄音機のような分かりやすいラインがひとつ。また、ゐる/ゐない、病気/環境、純真/贋物、孤心/陶酔のライン。仕掛けが分かるごとに面白みが増す。
この句は音の楽しさ。たぶん、此処にはこれまでもこれからも神様はいない。

重箱の底は開かなくなっている  樋口由紀子

8句すべてに「そうかも」と思う瞬間がある。ちょっとした隙や、本物(本当)ではないものなどが並ぶことで、正月の非日常さをパネルをひらくように構成していく。日常に対して、非日常はたぶん必要だけれども、いかんせん心はわくわくはしない。もう、とっくに。だって底が開いてしまったら終わっちゃうから。

果汁一パーセントのジュース冬の星  相子智恵

京都の少年か。冬の夜に子どもが飲むジュースはうすくて十分だ。甘いものを飲めればそれで嬉しい。この句は「一」や長音、「ジュウ」が冬の星っぽくって楽しい。

かわせみが雪の景色の枝に待つ  福田若之

たしかに川の付近に行くと、この季節でも翡翠がいるときがある。雪景色のモノクロームみの多い世界では、かわせみさえもモノクロームに寄った色の鳥として、目に映るだろうか。そして、このかわせみの待っている出来事は、やってくるのであろうか。待つという「こと」が目的になってしまったようなこの句からも、10句全体からも、本来の時間とは別の、時間経過のながさを感じた。時間の経過に向けられる、そのときの作者の知覚が思われた。

降誕祭ワカケホンセイインコ群れ  岡田由季

カタカナヒョウキに目を惹いた。ワカケホンセイインコってどんなインコか調べたら、身体が黄緑でくちばしが赤。たとえば夢に出てきたらだいぶ怖い。しかも群れているし。そういう意味では、句のスタイルと内容が一致して、ワカケホンセイインコっぽい。


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松本てふこ 家族旅行 10句 ≫読む
浅沼 璞 冬季十韻 10句 ≫読む
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