2020-03-15

【週俳1月2月の俳句を読む】鬼もうつろう 小林かんな

【週俳1月2月の俳句を読む】
鬼もうつろう

小林かんな



水仙や線路を切り替へるレバー                細村星一郎

レバーは一日に何度切り替えるのだろう。駅によって、路線によって、頻度はさまざまだが、レバーを引くたびに、電車の進路が切り替わると思うと改めて感慨深い。ほんの少しの違いがどんどん広がっていく。出会いと別れの場である駅に訪れる出会いと別れの季節。


夕方の石のしづかな鬼やらひ                田口茉於

鬼やらひはもとより鬼にとっては受難の夜。考えてみると、人間が「鬼」と一括りにして遠ざけるのは悪ばかりとは限らない。世間という多数派に馴染まない少数者も「鬼」と遠ざけられてきたのではないか。「静かな石」と描かれても、境界線を引くための石、投げる礫としての石が見えてくる。

時は夕方、鬼やらひの始まる前と思い込んでいたが、現代、追儺の儀式は日中に実施されることも多いようだ。いつの間にか鬼は日の高いうちに現れ、祓われるように様変わりしていたらしい。寡黙な句だからこそ、いろいろ思わされた。


第665号 2019年1月19日

山本真也
 マジカル・ミステリー・ジャパン・ツアー 10句 ≫読む
細村星一郎 もしかして 10句 ≫読む
第669号 2019年2月16日
田口茉於 横顔の耳 10句 ≫読む
第670号 2019年2月23日
前田凪子 新都心 10句 ≫読む

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