【句集を読む】
省略の妙味
谷口智行『星糞』の一句
西原天気
省略は、どうしたって俳句についてまるわけですが。
月の家暗きところは暗きまま 谷口智行
《月の家》に省略された語句を、読者はそうと意識せずに補って読みます。
月の(あかりに包まれた)家
あるいは
月の(夜に)家(にいると)
ふたつは(散文的な)意味においてはすこし違ってきますが、情景としてはどれほど遠くない。
中七以降に続く《暗きところは暗きまま》は、陰翳を示すことで月光の有様を伝える。
省略の補完はまだまだあります。
月の(夜にひときわ美しいたたずまいを見せる)家
これだと《暗きところは暗きまま》は、そのように設えられたふうに思えてきます。
読者それぞれ受け取るイメージは微妙に異なる、あるいは、一人の読者にいくつものイメージが重なって見えてくるわけですが、大筋、見えているものは同じ、という点はだいじ。一定の振り幅に収まっています。
どうとでも受け取れる句(それが面白い場合もあるのですが)とは違い、読みの多様が、重層・多声として、句の感慨に寄与しています。
なにげないけれど、おおらかに美しい句。
掲句は谷口智行句集『星糞』(2019年11月/邑書林)より。
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2020-03-22
【句集を読む】省略の妙味 谷口智行『星糞』の一句 西原天気
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