【句集を読む】
ウインナーコーヒー420円
関根誠子『瑞瑞しきは』の一句
西原天気
鬼貫忌上島珈琲にてひとり 関根誠子
上島鬼貫(1661-1738)なので、上島珈琲。なんとも安易な!
鬼貫は現在の兵庫県伊丹市の生まれ。上島珈琲は神戸に本社を置く。上島珈琲店は全国にあるが、イメージは近畿(残念ながら伊丹市にはない模様)。両者には、かすかなつながりがある。
って、そんなつながりはさして重要ではない。つまりは、安易。
ただ、ここで言っておかねばならないのは、安易は、ときとして素晴らしいということ。
鼻歌でも歌うような調子で一句、というのは大いにアリ。作るほうも読むほうも、なんだか愉快になる。それに、鼻歌には価値がなくて、朗々と歌い上げるオペラ曲は価値がある、なんてことはありません。俳句は小さいのでオペラを喩えにもってくるのは無理があるが、それはそれとして、鼻歌にもオペラにもそれぞれ価値がある。
俳句というのは、鹿爪らしく向き合うとどんどん退屈になる。俳句はナメてかかるべきだし(暴論持論)、世の中もナメてかかるべき(持論為念)。
そうした覚悟、読者の覚悟をもってすれば、締めに置かれた「ひとり」の三文字は、なかなかに颯爽として、毅然。
なお、句集『瑞瑞しきは』は、上掲のように素敵に人を喰った句の一方、
石に寄り水に遅れし落椿
といった本格(?)写生句もあれば、
爪染めて髪染めて秋の豆腐屋へ
といった婀娜っぽい句も。
ほか、気ままに引くと、
冬近し寝しなに荒らす菓子袋
大年や湯気もろともに出汁移す
春の風邪われに自愛の日々もたらす
など。あかるくすこやかな句群が愉しい句集です。
関根誠子『瑞瑞しきは』2020年3月/ふらんす堂
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