2020-09-20

【700号記念】七百句・序説 山口優夢

【700号記念】
七百句・序説

山口優夢


高浜虚子の句集「五百句」が、ホトトギス創刊500号を記念して編まれたことは有名な話だ。そこで、週刊俳句700号を記念して「七百句」を編もうと思った。ワタシの、ではない。いくらなんでも、雑誌の主宰者でもないのにメモリアルな達成にかこつけて自分が露出しようと言うほど、卑しくはない。過去に週刊俳句で発表された俳句の中から700句を選ぼうと言うわけだ。

まずルールを決めよう。基本的に、週刊俳句で発表された俳句に限ることにする。10句作品がその中心にはなるが、新年詠・角川俳句賞の落選展も対象に入れる。週刊俳句賞は……どうしようかな……たしか2回しかやっていないし、今回は見送らせてもらおう……。

700句を選ぶことで何か見えてくるものがあるだろうか。分からない。この13年間の俳句のトレンドやうごめきが、もしかしたらあぶりだされるかもしれない。

最近でも言うのだろうか? いわゆる「ネット俳句」と呼ばれた、インターネットを発表媒体として生まれた10年以上の俳句を700句集めることになるのは、ちょっとした壮観かもしれない。と言うか、角川俳句や俳句界といった紙媒体に発表された俳句で同じようなことをしようと思っても、たぶん無理だ。過去10年分の雑誌を取っていること自体がとても難しい。そういう意味では、バックナンバーにアクセスしやすい「ネット俳句」に分があるのかもしれない。

……と、ここまで書いて作業にとりかかったが、700号、多すぎるでしょ……。俳句作品をひろって気に入った俳句をピックアップするだけなのに、1時間かけて40号くらいしか進んでいないよ……。これ、700号の掲載にとても間に合わないよ。

あの、すみませんが、700句は完成したらまた寄稿するので、今回は「やります」という宣言にとどめておくわけにはいかないだろうか(天気さん、ごめんなさい)。

だいたいよく考えたら、虚子だって「五百句」「五百五十句」「六百句」「六百五十句」までは作っているけど、そのあと出た「七百五十句」は没後にまとめられたもので、「七百句」は作っていないんですよね。そう思うと700号って、改めてすごいような気もしてくる。すごいよ、うん。

……とりあえず、腰を据えて七百句を作るにあたって、ひとつ仮説を立てておきたい。それは「東日本大震災の前後で発表される俳句の傾向が変わる」ということだ。まだ最初の40号くらいではあるが、震災前の俳句はやはりどこか牧歌的なように思える。この日常がどこまでも進んでいくことを疑わないというか……。震災をはさんで連続的に俳句が発表されていて、かつバックナンバーにアクセスのしやすい媒体は、逆に週刊俳句くらいのものだろう。仮説の検証にはもってこいの素材ではある。ぜひ、考えてみたいと思う。


ひとつ気づいたことを最後に付け加えておきたい。これまでこの媒体では、さまざまな企画が掲載されてきた。最近は反響を呼ぶような企画をなかなか見ない気もするが(ワタシが最近の俳句事情に疎いせいかもしれない)、それはともかくとしても、これだけ続いてきた媒体では、むしろどんな企画が変わらずに続いているのかを見る方が、特質が分かるというものだろう。地味ではあるが、そういう意味では「●月の俳句を読む」が一貫して続けられていることに、今回、バックナンバーをたどっていて改めて注目した。

初めて掲載されたのは2007年7月1日の第10号。「週俳6月の俳句を読む」と題して1つのページに複数の評者が前月発表の俳句を俎上に上げている。これは1つのページに1人の評者というスタイルに変化し、直近では先週の699号にも「週俳8月の俳句を読む」が掲載されている。

もちろん、角川俳句にも鼎談のコーナーがあり、自分の媒体で発表した俳句を批評している。しかし鼎談のメンバーは基本的には固定されたもので、ある程度のキャリアを積んだ俳人たちだ。これは、角川俳句に発表された俳句を俳句史の中に定着させようという意志を感じる企画だ。

「●月の俳句を読む」は、ちょっと違う。そもそも毎回評者が変わる。あまりキャリアにこだわった人選にも見えない(と言うか、自分が「中の人」をやっていたときにはこだわらなかった)。たぶん「定着」よりは「発散」を狙っているような気もする。その試みはかなり成功しているのではないだろうか。

だいたい、評者は年間で誰か一人に決めておいた方が編集作業もラクなはずなのだ。でもそうしないで、毎回毎回誰に書いてもらうか考えて、いろんな人に依頼文を送るなどという手間をかけるからには、それなりの意図があろう。

いろんな人が出入りする猥雑さ、一種の「句会」のような、いろんな人がいろんなことを言っている感、そうしたものが13年間続いてきたことの意味は、小さくないような気もする。週刊俳句の雰囲気を作るひとつの柱であろう。個人的には続いてほしいコーナーだ。


≫タグ:10句作品

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