【週俳10月の俳句を読む】
10月の俳句の中で、注目した句を中心に取り上げていきたい。
俳句は、眼が効いている句、いままでにないイメージを持った句に、私は惹かれる。そして外してはいけないのは、リズム、つまり声に出した時の音である。
桂 凜火「盛装でゆくよ」より
夏の原牛と目が合うはにかみ合う 桂 凜火
夏の原といえば、だだっ広い場所を思い浮かべる。私は富良野あたりを想像した。広大な土地に、ぽつぽつと牛が放たれているのだろう。その牛を作者は見ていたのだろうか。目が合うという発想、そしてそこからはにかみ合うへと発展させたところが良い。牛の表情をよく見た句だろう。「目が合うはにかみ合う」というリズムもよい。
越えてゆく黄蝶の記憶霧の海 桂 凜火
私は、作者が霧の海を越えている、そしてその最中に黄蝶を思ったのだろう。蝶のひらひらした動きは印象的だが、黄蝶となればなおさらだ。霧というグレーや白のイメージから、黄色の蝶への飛躍はおもしろい。春は黄蝶を追っかけた森で、秋は霧に包まれている森、同じ森を想像した。それぞれの情景がよくみえてくるのではないか。
藤原 暢子「息の」より
花梨の実鞄の闇の甘くなる 藤原 暢子
このイメージは非常におもしろい。花梨の実が甘い香りがするのは当たり前だが、鞄の闇が甘くなるへの繋げ方がよかった。闇が甘くなる、なにか鞄自体がゆるむような、柔らかい感覚を持つことさえできる。この闇という言葉が活きている。
毬栗のたくさん当たる石仏 藤原 暢子
毬栗と石仏は近いところにある二物だろう。しかし、「たくさん当たる」が成功しているように思う。このシニカルな情景を描き出すことでこの二物の位置関係をより面白いものに発展させることができている。
コスモスを揺らせる息のいつか風 藤原 暢子
連作を作るうえで、表題句がどれだけ句群を引っ張ることができているかという点が重要であると思う。10月の4人の作品を読ませていただいたが、表題句に惹かれたのはこの句だけだった。「いつか風」という表現が何とも素敵で、それはコスモスを揺らしている息だと。
ちょっとした息でそよぐコスモス、しかしどんな強風にも打ち勝つコスモス。このコスモスの様子をしっかりと眼でつかんで、最後のイメージに落とし込んだ俳句だった。息の「i」いつかの「i」が連続するところも読んでいて気持ちよかった。
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