【空へゆく階段】№36 解題
対中いずみ
「青」441号(1991年6月号)は、「平成二年度 碧鐘賞発表」が組まれた。田中裕明と岸本尚毅のダブル受賞。「選出のあとに」という爽波の文章に「魚目・伊智郎の二氏を除けば、いま同人の中でこの両君の実力は図抜けている。片や昭和三十四年生れ、そして昭和三十六年生れというその若さに加えて、俳句に於ける感性、表現力、想像力の豊かさ、など、既に「青」の田中、岸本を超えて俳壇に於ける若手代表作家の中核として広く注目を集め、また客観的評価をかち得ている二人である。私が今回の碧鐘賞の選出に当って、単に右に書いたような既成事実を重んじたということでは無くして、私自身がこの両君の作品からいつも何らかの刺激を受け続けて、それを私自身の俳句の年齢的衰えを防ぐ貴重な糧としてきたというその一事を以て、この両君を今こそ「青」の場で顕彰して置かねばと思ったのである」とある。
この号の裕明投句作品は「桜鯛」6句である。
花杏夕やみはやき青つむり
枝をふむ甘茶仏よりはなれきて
見覚えや惜春のこの筆の筒
舟ついて人の散りゆく春椎茸(はるご)かな
目覚めればつちふる国でありにけり
桜鯛すでに水着の子など見て
「見覚えや」「舟ついて」などを見ておやっと思った方もあるかもしれない。のちに『俳句という遊び』(小林恭二著 岩波新書)にまとめられた甲州・飯田龍太宅における句会に出された句である。1990年4月に開催された句会の出席者は、飯田龍太、三橋敏雄、安井浩司、坪内稔典、小澤實、田中裕明、岸本尚毅であった。爽波の言う「俳壇に於ける若手代表作家の中核として広く注目を集め」という言葉にはそういう背景もあっただろう。
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