2020-11-07

7. 西生ゆかり 体と遠足(*)

 7.  西生ゆかり 体と遠足(*)

入学の全てを入れる青い箱

春眠し口紅だけの母と居て

桜餅日記に書かなかつた海

寄居虫を運ぶピアニストの右手

船室に現金のある日永かな

平日の昼間の踊り布袋草

紫陽花や頭の良い人の頭

夏蜜柑一応取つておく書類

百日紅漫画の恋が叶はない

七月は光る焼肉屋の看板

朝曇何か置いても良い広場

青嵐たまたまそこに居る牧師

風鈴や記憶の顔の入れ替はる

秋の三階のコンセントの暗さ

西口に桃と救世主の車

薄くなる九月の列の外に居て

敬老の日の新しき担当者

暮早し桃の匂ひのする白衣

稟議書を紙の聖樹の横に置く

ざつと差す千両のバケツが青い

海老で作るハートマークや冬の旅

螺子ひとつ余つてゐたる湯ざめかな

交はらぬ玩具の線路雪催

節分の折れば小さくなる仮面

ラーメンに大事なもやし寒戻る

鳥曇声と呼吸を通す穴

引越の最後は体春の昼

ぶらんこの下の地面が剥けてゐる

サイネリア夜の乾電池の重さ

白躑躅番号札のための列

遠足やどの子も丁寧に生まれ

遠足のきちんとずれてゐる手足

野遊や一人は水のやうに立ち

春の宵全てのドアが開くバス

花水木私のほとんどは体

柏餅書けなくなつてからの指

フランスの犬の心配桜の実

金網の薔薇の密度に歪みゆく

更衣てふやはらかき祭かな

茉莉花や島にふたつの集会所

マヨネーズを持ち込んでゐる船遊び

蛸の脚二本と本体の一部

夕暮や取りては戻す香水瓶

触れ合へる蓮の浮葉の襞と襞

珈琲が来てから外すサングラス

熱帯魚の後ろに海が描いてある

貧血や蛍袋の端の反り

ふつと目を開ければ髪を洗ふ吾

白日傘開くたまたま生き延びて

その日まで台車に載つてゐる神輿

1 comments:

折戸洋 さんのコメント...

チョコボール母に預けて入学す 折戸洋