【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】
大滝詠一「雨のウェンズデイ」
憲武●いよいよ関東地方も本格的な梅雨に入りそうな感じです。この時期、思い出してしまうこの曲、大滝詠一で「雨のウェンズデイ」。
憲武●この曲は1981年発売の大ヒットアルバム「A LONG VACATION」(1981年)に収められてます。作詞は松本隆です。音が分厚いです。僕は21歳でしたね。
天気●エコー多めで、奥行きのある音作りですね。それと、大滝詠一って転調を多用するなあと思っていて、この曲も凝った転調を使ってますね。
憲武●梅雨の時期の変わりやすい天気を思いますね。晴れたかと思ったら、急に雨だったりがっかり。このアルバムには「君は天然色」「恋するカレン」「さらばシベリア鉄道」などの名曲も収録されてますが、僕はこの曲が一番好きです。
天気●地味め、というか、渋めの曲ですね。大滝詠一は雨だと、センチな曲になるみたいですね。ま、誰でもそうかな。はっぴいえんど時代の「12月の雨の日」とかソロ1枚目の「五月雨」とか。
憲武●1981年当時、夏から秋にかけて8ミリ映画を撮ってまして、主演の女の子を好きになってしまって、デートもしたんですがフラれるという思い出も重なってるんですね。鎌倉の海、思い出しますよ。
天気●おお! またまた、青春の1ページ的な! エピソードをはさんできますね。
憲武●はさんじゃいますよぉ。歌は世につれ人につれ、です。大滝詠一はこのアルバム、山下達郎は「RIDE ON TIME」(1980)がそれまでのファンから、見切りをつけられ、離れて行くという結果になったアルバムだと思います。当時の言葉で言えば、「売れ線」を狙ったアルバムと見られていたんでしょうね。
天気●なぜか、このアルバム、買わなかったし、「君は天然色」をテレビやラジオで聴いたのみ。この「雨のウェンズデイ」、今回はじめて聴きました。べつに売れ線を嫌うという態度ではなかったんですが、タイミングですかね。
憲武●なるほど。当時はメジャーになる事を良しとしない風潮がありました。メジャーになる事を「魂を売った」と言って蔑んでいたような風潮です。でもみんな、そんなこと言いながら本当は売れたいと思っていたんだと思います。
天気●大滝詠一は、好事家が訳知り顔で好く、といった傾向がたしかにありましたね。引用の多い音楽は、どうしてもそうなる。
憲武●この大滝詠一のアルバムが、そういった風潮のギリギリ最後ではないかと思いますね。
天気●このアルバムの前までの大滝詠一は、めちゃくちゃ趣味のいいアマチュア、音楽が作れる音楽家。このアルバムからプロフェッショナル、って感じでしょうか。アマとプロ、どちらがいい、そちらがエライという話ではなく。
憲武●ナイアガラの頃の大滝詠一は本当によかったです。このA LONG VACATION以後は「売れたら勝ち」みたいな風潮に一気に変わっていったと思うんです。
天気●「売れたら勝ち」はいいと思うんです。「売れたい」と思っている人にとっては。でも「売れなきゃ負け」がセットでくっついてくると、よくないと思うんですよね。それと売れる売れないとクオリティはあんまり関係がないってことは了解しとかないと。なんでもそうですけどね。
憲武●この時期の愛聴盤なんです。と言って昔の思い出に浸っている訳ではありませんよ。いいものはいい。古くならない、と思います。
(最終回まで、あと801夜)
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