2021-09-18

犬はけだもの 上田信治 42句

 


 

犬はけだもの 上田信治

茄子虹色みなみに喇叭鳴りぬれば
テーブルの紫陽花錆びて煮干散る
住むことの今年花栗にほふ夜に
横日さす花の空木よ蟲飛びつ
翡翠のこゑとぶ雨の山つつじ
くらい日の水に日のゆれ半夏生
雨の鳥たうもろこしの花のうへ
青年は実梅の落ちて影のない
国破れて赤いチェリーに味のある
ほつれてもアロハのシャツよ思ひ出の
くりかへす太郎のそれは電車なり
階段は遠目に枇杷が生つてゐる
犬はけだもの苦瓜の種赤くあり
夏の偉人汗のゆふがたの河原の
夾竹桃ジンをどぼどぼと捨てにけり
エゴノキの若木の咲いてゐる斜面
海へ行く胡瓜をたくさん持つて風に
無花果の空見上ぐればたましひよ
人は自分を奏でて秋のコップかな
神は見ない水に砂糖の溶けてゆく
梧桐に日は八月のかげをなす
秋の蟬フィルターを乾かしてゐる
透明な魚で生きて星祭
秋草のむかしは赤い電話かな
人情の秋の布団の軽さとは
うみやまのあひの匂ひや糸とんぼ
小さな秋光る音してセロハンの
ベランダがペリカンに似て秋の空
芝枯れて給水塔のフォークロア
アパートに考へ無しの冬日かな
水仙やジャージ上下に足はだし
甘栗は冬のくもりの空に割る
たんぽぽのあひるの春の夜の海
クロッカス歩けば歩くほど休み
まんさくや物が置かれて事務机
春堤や一二歩下りてから佇む
根切虫きみどり色の町の夜を
顔赤くして哀しみのはうれん草
はるのくれ明日敷く石のタイルの山
限りある家の暮春を拭いてをり
いつぴきの白山羊の鳴く卯月野へ
夕蛙構造物へみづのなみ

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