タイガーモノローグ 野口る理
寅年のマフラーぐるぐるぐるぐる巻き
あやふやをほほゑみすごす遅春かな
流氷も頸椎も切るピアノ線
透明を集め蛙のてのひらは
春分や剣玉の糸くすませて
ひらめきの途中ヒヤシンスのささやき
恋猫やセロハンテープ飴色に
夜桜や茶葉ざはざはとやはやはと
花冷のソファーにひそむ巨大発条
春疾風いつも祈りは闇とともに
指明るし天道虫を逃がすとき
薄暑さながらぱりぱりのシーツかな
麦秋や窓辺の突つ張り棒斜め
再会や虹に緑の濃き中野
金髪かつ短髪こんな風に汗
海の日の誰も傷つけないカッター
蛍とほく水族館は濡れてゐる
海月なり光あれどもなけれども
向日葵に強き一理のありにけり
おとなりも見てゐる投網めく花火
水撒けば砂縮こまる残暑かな
てつぺんはいくつもあつて青とんぼ
踊りつつ踊らぬ人を見てをりぬ
稲妻や重機も眠るときうつむき
木犀にあらためて夜の来たりけり
秋の夜の猫座なら尾の躍動感
タピオカが雨の子規忌を揺れてゐる
集まつてゐて桃達の触れ合はず
虫籠に三百日の不在かな
クリップを集めて軽し火恋し
はつふゆはお辞儀のあとのつまさきに
帰り花束ねて誰も彼も敵
綿虫のふるさととして黙す樹々
冬晴れやパーカーのひもあいまいに
枯蟷螂逃がす手つきのまま眠る
等分ぢやなくて二人の窓へ雪
贋物が彩るクリスマスツリー
白雲や聖歌に出てこないわたし
かまくらに残れるグミの昏さかな
木菟の端ひつ摑みそれつきり
0 comments:
コメントを投稿