2022-09-04

田中裕明【空へゆく階段】№76 後記 313号

【空へゆく階段】№76
後記 313号

田中裕明


「青」第313号(1980年10月)

先日京都でシャガール展を見ました。土曜の午後だったので会場はたいへん混雑していて我慢強くない僕は途中で一生懸命に見ることを諦めてしまいました。人の頭ごしに小さなリトグラフを眺めながら思ったのは、詩人が色を鑑賞者と共有するようには言葉を読者と共有することはできないのではないかという疑問です。画家が色で考えるように詩人はことばで考えるわけですがその言葉は読者の言葉と違うものです。詩人が花と言えばわれわれは花という言葉を見ますが、その花は同じものでも同じ言葉でもありません。こんなことを言うのは、かえって絵に対する同情が足りないのかも知れませんが。

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