2022-10-16

田中裕明 【空へゆく階段】№78 後記 314号

【空へゆく階段】№78
後記 314号


田中裕明

「青」第314号(1980年11月)

夏休みがおわってからずっと俳句に直接関係のない本ばかり読んでいます。もちろん前期試験のための「電磁気学」や「電子制御工学」というのも俳句に関係ない本ですがそうではなくて、埴谷雄高であるとか花田清輝であるとか。読んでいると身体までが宇宙に発散してゆくような気がします。意識が漂遊しているのは間違いありません。気がついたときには暗い部屋で何かのリズムをとっているわけですが、こういうときには俳句について書かれた文章がひどくつまらなく見えます。それでも俳句そのものは変わりなくうつりますからなんとなく安心することができます。そうして生活の多層性を思って、そのいちばん深いところに季節があるのかないのか、伝統があるのかないのか探るわけです。

いつものことながら季節がうつりゆくさまには驚かされるばかりです。とくに今年の曼珠沙華はひよいと見たらもう咲いていてもう一度見たら消えていたので十月の終わりになってもその感じが尾を曳いています。時の流れに追いつける筈がないのでせいぜい思い出すことにつとめましょう。どれくらいありありと目にうかべることができるかいかに刻明に思い出すことができるか、それ以外に時間の尺度を私たちのうちに求める方法はないと思います。

編集部も今のスタッフになって一年ですがまだまだもたついていて三ヶ月連続競詠の鑑賞文を次号に繰りこしてしまいました。まことにすみません。そろそろ来年の企画をねっていますが、来年はこういうミスのないようにつとめます。


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