おはよう 藤田哲史
幼さは抱きあいねむる今朝の冬
日のさすと懐かしくなる枯木です
おきぬけの京訛してふゆと言う
かいつぶり人には告げずもの買いに
チクタクと今日の残りを降りきる雪
電線にか細く積もる雪のあわれ
山眠るピアノを置いて喫茶店
店番の本業無職竜の玉
やわらかくゆがかれている寒さです
おでん鍋近況に知られて恋は
おはようと言いマフラーを外すこと
卒業期卵つかめばざらざらと
教会の頂に鐘冴返る
つばくらめ坂下に海青ければ
串打ちも終わる頃合暮れかねて
はるのよは本の眩しい読書灯
先生に叱られにゆく春の雨
傘上げて雑踏抜ける花のころ
蛤に舌あり人に嫉妬あり
劇場にさぼりにゆくとシクラメン
春惜しむ人の少ない雨の駅
新緑のますます匂う二三日
筍に雨粒零す日のあること
そらまめを茹でて分けあう関係とは
ほととぎす長湯に思う遠い町
さみしさは彼の知らない路地のばら
ぺちゃくちゃと夜の噴水待ちあえば
走馬燈恋煩いと言う勿れ
再会にクリームソーダ奢りあう
オフィス全館冷房定時過ぎもなお
今日は今日昨日は昨日蟇
ふっつりとみずうみ凪ぐと午後の入
なくすには惜しい晴れ方立葵
読むうちに白雨している千住です
遠花火きのうのうちに購う切符
死ぬまでに見たい映画を夏休
晩夏にとりのこされた自作ラジオ
スヌーズの多い生涯休暇明
新涼は白揃えして家の皿
一つ鞄に意中の二冊鰯雲
桟橋に叫ぶ船員水の秋
われもこう狂気交じりに夜は来て
ムニエルはバターの匂い今日の月
番台の見える脱衣所雁渡
はんかちにのせて棗を見せにくる
休日を丸齧りして酸い林檎
期日責めの十一月もあと二日
親しさはすりっぱ冷える診療所
急行に世界の冷えがなだれこむ
もの思う七人掛けの皆マスク
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