2022-11-27

【連続掲載】作品50句〔1〕 ■藤田哲史 おはよう 50句



 

  おはよう 藤田哲史

幼さは抱きあいねむる今朝の冬

日のさすと懐かしくなる枯木です

おきぬけの京訛してふゆと言う

かいつぶり人には告げずもの買いに

チクタクと今日の残りを降りきる雪

電線にか細く積もる雪のあわれ

山眠るピアノを置いて喫茶店

店番の本業無職竜の玉

やわらかくゆがかれている寒さです

おでん鍋近況に知られて恋は

おはようと言いマフラーを外すこと

卒業期卵つかめばざらざらと

教会の頂に鐘冴返る

つばくらめ坂下に海青ければ

串打ちも終わる頃合暮れかねて

はるのよは本の眩しい読書灯

先生に叱られにゆく春の雨

傘上げて雑踏抜ける花のころ

蛤に舌あり人に嫉妬あり

劇場にさぼりにゆくとシクラメン

春惜しむ人の少ない雨の駅

新緑のますます匂う二三日

筍に雨粒零す日のあること

そらまめを茹でて分けあう関係とは

ほととぎす長湯に思う遠い町

さみしさは彼の知らない路地のばら

ぺちゃくちゃと夜の噴水待ちあえば

走馬燈恋煩いと言う勿れ

再会にクリームソーダ奢りあう

オフィス全館冷房定時過ぎもなお

今日は今日昨日は昨日蟇

ふっつりとみずうみ凪ぐと午後の入

なくすには惜しい晴れ方立葵

読むうちに白雨している千住です

遠花火きのうのうちに購う切符

死ぬまでに見たい映画を夏休

(おそ)夏にとりのこされた自作ラジオ

スヌーズの多い生涯休暇明

新涼は白揃えして家の皿

一つ鞄に意中の二冊鰯雲

桟橋に叫ぶ船員水の秋

われもこう狂気交じりに夜は来て

ムニエルはバターの匂い今日の月

番台の見える脱衣所雁渡

はんかちにのせて棗を見せにくる

休日を丸齧りして酸い林檎

期日責めの十一月もあと二日

親しさはすりっぱ冷える診療所

急行に世界の冷えがなだれこむ

もの思う七人掛けの皆マスク


 


 

0 comments: