2022-11-27

【連続掲載】作品50句〔1〕■クズウジュンイチ カステラ 50句



 

  カステラ クズウジュンイチ

今ここに春を置くらん揚餃子

上澄みは海まで続く春の暮

撫でられて犬の薄目や土手の春

ともだちを疑ひながら浅蜊かな

麻婆豆腐鍋に滾つてよなぐもり

夜桜や青き暖簾にそばうどん

塗り分けの磁石は棚にヒヤシンス

屋上が全部鳩小屋昭和の日

やはらかな肌のをとこや菜種梅雨

桐の花昼の野池にまはり落つ

うらどしの青梅が載る竹の笊

五月雨にまくつて長きむかうずね

釣鯵に塩して風の効く日かな

リリーフはちからいつぱいソーダ水

指差して蚯蚓と言うて遠ざかる

人死んで真つ先に飛ぶ蛍かな

雨呑んで鯰の芯のありどころ

浮草が埋めて行き場のない水路

よくかんで動くこめかみ吊忍

鶏卵のひとつに蛇の記憶かな

腹這ひの子がそばに居る夏帽子

冷麦の昼を覗いてゐるインコ

窓越しにずつと金魚の洋食屋

炎天の家並を鳥が伸びていく

裏口が開いてすぐの蝮かな

邯鄲や橋が峠のやうにある

秋口の軽いバイクが走り去る

八月の骨に珊瑚がついてゐる

鈴虫の止んでつめたき竹輪天

投光器鳥はいくらか霧の中

こほろぎが細く鳴き継ぐ雨に会釈

毒茸の雨のななめに溶けにけり

カステラや秋の空なら野のはづれ

たうきびがうすくらがりに茹だつて黄

うらごゑを子が真似てゐる竈馬

かすみ目の遠さを鹿が跳ねていく

熟柿食うて鴉が太き嘴拭ふ

一つづつ星が出てゐる茸汁

韓国の匙で掬つて十三夜

晩菊の抗ひながら水の粒

からくりの紐がからんで文化の日

しやらしやらとみづにかへして散紅葉

ラッパ鳴る十一月のうらがはに

柊の花とんかつは揚げて切る

寒林を雲が繋いでをりにけり

トーストやびつしり霜のトタン屋根

ストーブや生まれてすぐの人がゐる

一瞥や歩きながらに雪の傷

みづぎはをおほきくそれて冬の石

ポケットの底に砂粒火事迫る



 

0 comments: