カステラ クズウジュンイチ
今ここに春を置くらん揚餃子
上澄みは海まで続く春の暮
撫でられて犬の薄目や土手の春
ともだちを疑ひながら浅蜊かな
麻婆豆腐鍋に滾つてよなぐもり
夜桜や青き暖簾にそばうどん
塗り分けの磁石は棚にヒヤシンス
屋上が全部鳩小屋昭和の日
やはらかな肌のをとこや菜種梅雨
桐の花昼の野池にまはり落つ
うらどしの青梅が載る竹の笊
五月雨にまくつて長きむかうずね
釣鯵に塩して風の効く日かな
リリーフはちからいつぱいソーダ水
指差して蚯蚓と言うて遠ざかる
人死んで真つ先に飛ぶ蛍かな
雨呑んで鯰の芯のありどころ
浮草が埋めて行き場のない水路
よくかんで動くこめかみ吊忍
鶏卵のひとつに蛇の記憶かな
腹這ひの子がそばに居る夏帽子
冷麦の昼を覗いてゐるインコ
窓越しにずつと金魚の洋食屋
炎天の家並を鳥が伸びていく
裏口が開いてすぐの蝮かな
邯鄲や橋が峠のやうにある
秋口の軽いバイクが走り去る
八月の骨に珊瑚がついてゐる
鈴虫の止んでつめたき竹輪天
投光器鳥はいくらか霧の中
こほろぎが細く鳴き継ぐ雨に会釈
毒茸の雨のななめに溶けにけり
カステラや秋の空なら野のはづれ
たうきびがうすくらがりに茹だつて黄
うらごゑを子が真似てゐる竈馬
かすみ目の遠さを鹿が跳ねていく
熟柿食うて鴉が太き嘴拭ふ
一つづつ星が出てゐる茸汁
韓国の匙で掬つて十三夜
晩菊の抗ひながら水の粒
からくりの紐がからんで文化の日
しやらしやらとみづにかへして散紅葉
ラッパ鳴る十一月のうらがはに
柊の花とんかつは揚げて切る
寒林を雲が繋いでをりにけり
トーストやびつしり霜のトタン屋根
ストーブや生まれてすぐの人がゐる
一瞥や歩きながらに雪の傷
みづぎはをおほきくそれて冬の石
ポケットの底に砂粒火事迫る
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