2022-11-27

佐藤知春 AI俳句トークショーを聞いて

AI俳句トークショーを聞いて

佐藤知春


2022年10月9日、新宿の紀伊國屋書店2階BOOK SALONにて、小川楓子氏の第1句集『ことり』、大塚凱共著『AI研究者と俳人』刊行を記念した、堂園昌彦氏・小川楓子氏・大塚凱氏・生駒大祐氏によるトークショーが開催された。第一部では、『ことり』の鑑賞会、第二部では『AI研究者と俳人』で取り上げられていた俳句AIの研究の内容を踏まえて、「AIが『ことり』を作ることができるのかどうか」について、熱い議論が交わされた。

私はAIの専門知識は持ち合わせておらず、日頃ニュースで聞く程度であったので、俳句とAIというテーマにあまり馴染みがない。感覚的に、俳句の五七五という短さや、季語、切れ字といった特徴的な要素は、パターン化して言葉を繋いでいくことを得意とするAIと相性が良いだろうと考えていた。一方で、感覚器官をもたないAIが、五感から得られた情報を全て分析して、人間が詠むときと同じように、他の人の共感を得られるような言葉にできるのだろうか、ということについて疑問を感じていた。

小川楓子氏は、日頃から吟行を通してそこから得られた素材にして句を作ると語った。『ことり』に収録されている句も、吟行を通じて見たものや感じたものをもとにして作られているものが多いという。第一部で取り上げられていたどの句も、日常によくある素材を独特の感性で捉えているものが印象的で、風景の描写に留まらず、読み手の感覚に訴えかけるように詠まれていると感じた。それゆえ、「AIは『ことり』を作ることができるのかどうか」に、「多分できる」という結論が出たことは、ある意味で衝撃であった。

『ことり』に収録されている句をAIに学習させ、『ことり』に特化したAIを作れば、『ことり』っぽい句を作ることができる。ただし、AIが作ることができるのは『ことり』っぽい句のみ、つまり模倣に留まる。『ことり』に特化したAIができても、そのAIが句を作る意義はあるのかという問題が残ると結論付けていた。

イベントの最後に「句を作る意義」という言葉が出てきたことは、改めて自分の句作を考え直すきっかけになった。AIは俳句や文学作品を短い時間でたくさん学習し、ストックされた言葉を瞬時に取り出すことが出来る点では、人間よりも秀でているのかもしれない。だが、過去の作品や言葉をたくさん知っているだけのAIは、誰かの真似しかできず、過去の作品を越えることはできない。そのような意味で、人間は自分が感じたことを、自分独自の新しい表現や組み合わせ方で句にすることが出来る点で、強みになると考えた。冒頭で、感覚器官を持たないはずのAIがどのように人間が共感できるような句を作るのかという疑問を述べたが、イベントを通して、AIは人間と全く同じようには感覚を理解できないように思われた。吟行や日常で得たものを、どのように感じて、どのような言葉で俳句にするのか。自分の感覚を信頼して、自分らしい言葉で詠むことが、自分の「句を作る意義」に繋がると考えた。


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