【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】
ズー・ニー・ヴー「ひとりの悲しみ」
憲武●歌謡曲特集第二弾です。ズー・ニー・ヴー「ひとりの悲しみ」(1970)。
憲武●イントロを聴いて「あれっ」と思われた方もいらっしゃるかと思います。
天気●うん、あの曲ですよね、これ。
憲武●ズー・ニー・ヴーと言えば「白いサンゴ礁」、「白いサンゴ礁」と言えばズー・ニー・ヴーというくらい有名ですが。
天気●流行りましたよねえ。あの頃、グループサウンズは夏っぽいヒット曲が多かった。そのなかでも際立ってファンシーな一曲でした。
憲武●そうでした。この「ひとりの悲しみ」は筒美京平の曲で、もともとはCMソングとして書かれたものですが、スポンサーの意向で不採用になってしまったんです。それで筒美京平の曲を管理していた日音のプロデューサーが、この曲をこのまま埋もれさせてしまうのは惜しいと考えたんでしょうか、詞を阿久悠に依頼して書かれたのが、「ひとりの悲しみ」です。安保闘争に敗れた青年の孤独がテーマらしいです。
天気●へえ。その裏話は知りませんでした。
憲武●詞が地味だったせいかヒットにはならなくて、先のプロデューサーは諦めきれず、詞をようやっと書き直してもらって、尾崎紀世彦が歌う「また逢う日まで」(1971)として生まれ変わり、その年のレコード大賞となる大ヒットになりました。
天気●これはもうめちゃくちゃ流行りました。夜のヒットスタジオで毎週聴いていたような記憶が。
憲武●尾崎紀世彦、嫌いではないです。当時、「尾崎紀世彦ショー ナウナウ」っていう番組見てました。しかしながら僕個人としては、こちらの「ひとりの悲しみ」の方が好きです。
天気●どちらも歌、うまいですねえ。尾崎紀世彦はもちろんうまいんだけど、このズー・ニー・ヴーも負けてないくらい、うまい。
憲武●うまいです。ソロになってからの「戦士の休息」、これは薬師丸ひろ子銀幕デビューの映画「野生の証明」の主題歌ですが、いいんです。ズー・ニー・ヴー、特にヴォーカルの町田義人はどう思ったでしょうね。そのせいかどうかわかりませんが、1970年にグループを脱退しています。
天気●歌謡界の闇ですかね?
憲武●詳しくは知りませんが。一曲に、たくさんの人が関わって、せっかくレコーディングまでしても、スポンサーの意向でボツになって、その歌手の名前は知られなかったり、詞を変えて歌われて大ヒットしたり、やるせないほどの思惑が交錯してます。一番いい思いをしたのは、思いを叶えることが出来た日音のプロデューサーではないでしょうか。
天気●歌謡曲一曲にも歴史あり、ってところですね。
憲武●はい。で、町田義人はどうしているかというと、メルボルンで彫刻家になってるそうです。人生はわかりませんね。
(最終回まで、あと735夜)
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