2023-10-22

中矢温 ブラジル俳句留学記 〔12〕サンパウロのメトロ

ブラジル俳句留学記
〔12〕サンパウロのメトロ

中矢温


サンパウロでの移動は、メトロ(地下鉄)を使うことが多い。バスは遅れがちだし、ウーバーの配車サービスはやや高額なので、普段の移動にはメトロが便利である。サンパウロのメトロは東京の電車と違って、乗車距離や駅数に関係なく一回4.40レアル(≒132円・私は学生なので2.20レアル)というシンプルな仕組みである。

メトロに乗ってまず驚いたのは、路上販売ならぬメトロ販売をする人が必ずいることだ。メトロの公認の販売員という訳では全くなさそう。腕時計や水筒を担いで、売り口上を述べながらメトロの車内を端から端まで売り歩く。

また路上演奏ならぬメトロ演奏をする人もいる。昔ながらの帽子に投げ銭スタイルもあれば、電子決済サービスPIXのQRコードを首にかけて演奏している最新のスタイルも見かける。今まで一番素敵だと思って5レアル札を渡したのは、ギターとフルートの二人組だった。インスタグラムのアカウントがあると紹介していたのだが、肝心のバンド名を忘れてしまってそれきりだ。またメトロで会えたらいいなと思っている。

更に商品も楽器も持たず演説をぶつ人もいる。そう、ホームレスの人々である。例えばこんな感じ。「私の名前はニック。あなたたちが触っているスマホも私は持っていない。あなたたちが今日の朝食べたパンも食べていない、あなたたちが飲んだコーヒーもそう。ああコーヒーが飲みたい。私は子どもが二人いるが、おもちゃ一つ買ってやることはできない。病院にも連れていってやることはできない。あなたは学び、職を得ることができている。かつては私も職があった、しかし今はない。あなたは私のようになる可能性がある。」
演説はうろ覚えだがとにかく流れるような速さで、何というか場慣れしている感じがあった。しっかりとお腹から声を出して、一駅か二駅のあいだ熱弁を振るう。

特に何もせず見ている人(私ですね)、スマホを弄ったまま無視をする人、「それだけか!」とヤジを飛ばす人、黙ってポケットの小銭を渡す人など反応は様々である。お金を受け取った場合でも、大げさに御礼を言うことはない。「ありがとう、こころから感謝する。」と一言礼を言って次の駅で降り、また次の演説へと向かう。ホームレスの方にも色々な段階があって、商品を仕入れるお金がなくなると演説をして、演説をするエネルギーを失うと、道で昏々と眠るのかなと私は理解している。間違っているかもしれないが。

一つ思うのは寄付の機会が、日本よりはかなり頻繁に日々あるということだ。クラウドファンディングのサイトがある訳でも、募金箱がある訳でもなく、外に出るたびに生身の人間から募金を求められる。都度無視することもできるし渡すことも決定できる。

さてこうも頻繁にメトロに乗るとぼんやりと顔見知りの人が出来てくる。と言っても私は人の顔を覚えるのが得意ではないので、失礼ながらタトゥーで覚えていることの方が多い。

一人目は小泉八雲もびっくりの精密な蜻蛉が左の上腕に描かれた女性。スマホを操作する人が多いなか、彼女はいつも本を読んでいて印象的だ。

二人目は左の手首にぐるっと何かしらの詩句が書かれた男性。ぐるっと輪を書くように書かれているので、何と書かれているかは分かっていない。いつか見せてほしいと密かに思っている。

三人目は右腕の肘の少し上に蝸牛のタトゥーを入れた女性。半袖のちょうど下に蝸牛がちょこんといる可愛いデザイン。

四人目はアニメのタトゥーを身体にたくさんいれている男性。ある日見かけると、何も描かれていなかった左脚のふくらはぎには伏黒恵(『呪術廻戦』のキャラクター)が刻まれていた。随分前に入れたであろう右脚のふくらはぎのナルトのタトゥーと比べると、伏黒は大変色鮮やかで、それはそのまま日本アニメの歴史の一部のようで何だか興味深かった。

他にも色々な方がいるが誰か一人でも見かけると何だかほっとする。「あ! ●●(勝手につけたあだ名)さんだ」と思ってほっとする。話しかけるような勇気はない。

メトロ内だと私のスマホは電波を拾わないので、ぼんやりと考えごとをして過ごしているのだが、いつもあっという間に最寄り駅に着く。私はメトロを降りて我がアパートへと帰路を急ぐ。今日も無事門について、ベルを押して門番さんに開けてもらう。感謝のグットサインをして部屋に戻ろうとすると、「おーい、シャペウジーニョ!本が届いているよ。」と私を呼び止める。

そう、帽子(シャペウ)をいつも被っているからか、いつの間にか門番さんからシャペウジーニョというあだ名をつけられた。可愛く訳するとすれば「帽子ちゃん」、やんちゃに訳するのなら「帽子小僧」と言ったところか。(因みに『赤ずきんちゃん』もシャペウジーニョ・ヴェルメーリョ)

ブラジルを去ることが決まっている仮住まいの身ではあるが、そろそろ私も誰かにとっての「いつもの光景」に仲間入りできた頃かもしれない。もしそうなら嬉しい。

色分けされていて、路線名も色の名前。交点で乗換が可能。


ポルトガル語版 (escrevi o resumo no português sem revisão gramatical)

Em São Paulo, metro é prático do que ônibus sempre atrasado. 

No metro tem passageiros variadas. Próximo, vendedores. Acho que eles não são oficiais na empresa do metro, mas pessoais. Segundo canteiras com guitarra, por exemplo. eu gostaria do grupo de guitarra e flauta e dei o dinheiro como agradeço, mas não posso lembrar nome deles...Que pena. Vou esperar na próxima vez. Terceiro, pessoas em situação na rua faz uma palestra. Penso que uma pessoa não tem dinheiro como começar ou manter o vender no metro vai fazer uma palestra. Demais, se ela perde uma energia de falar com ignora e as vezes trocos dados pelos passageiros vai dormir na rua.

O tempo no metro ocupa quase duas horas no cada dia. Vou memorizar algumas pessoas com tatuagens lindas porque não posso memorizar rostos. Eu dou a apelido para cada pessoa no meu coração.

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