竹岡一郎 敬虔の穹
うつろより歪な羽化を踊らんか
花街や伽羅焚いて秋渇く彼奴
墓洗ふ戒名を火と見紛ふが
水晶のさかえは月の餮ぬらす
魂棚の灯の奥に路ある如し
施餓鬼会に科つくりける新地かな
どろどろと盆の土産を嗅ぐ姉ら
鬼灯や妓の吐く唾が楼を焼く
兄失せる露地へ稲妻這はんとす
刑場の残暑の腑分け外典誦し
ししびしほ啄む孔雀露の色
琥珀の獄とんぼの咎を億年も
姿見に血の剋し合ふ弟切草
抜けど折れど焼けど明けには立つ案山子
全天が蝗の流砂電波に沿ひ
汝が背に凭れん霧に逝く虎よ
熔岩原は鬼形に凹み律の風
鉤と鞭集ひて我と化す身に入む
夜学子の声臈たけて正答す
葛原を心臓七転び光れ
不知火に脱皮はじめの鉄を宿す
蠟涙の螺旋が龍を成す長夜
豊年の山のはらわた璧と彫る
蠱毒最後の鳴く虫ひとつオルガンへ
フォーマルハウト鹹湖にて擬死冷え尽くす
良夜の看板「翔ぶ首に耳貸すな」
目無きものらの鎬けづるが不知火
流星を湖の焦がるる蛟かな
血泥より醒めればいつも虫時雨
谷神にふくらむ木通持ち重り
はららごや粉黛にほふ風しづしづ
嘴あるは渦巻け威銃咲ふ
縄ほどく秋天よりの宿命の
敬虔の穹をうべなふ鴇の影
梁満つる湾をわれから赦し鳴く
木犀揺するは深更の巫女もどき
輪回しの韻くよ猿の腰掛闌く
珠すさまじ誰も汲まぬ井を浮き沈み
無念彩らん露のもの壜に溜め
雲廊を鹿さまよへる諱かな
白無垢の裡なる紅葉且つ散りぬ
棹は鍵は三角智印を雁めざす
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