2023-10-01

竹岡一郎 敬虔の穹 42句

竹岡一郎 敬虔の穹




うつろより歪な羽化を踊らんか

花街や伽羅焚いて秋渇く彼奴

墓洗ふ戒名を火と見紛ふが

水晶のさかえは月の餮ぬらす

魂棚の灯の奥に路ある如し

施餓鬼会に科つくりける新地かな

どろどろと盆の土産を嗅ぐ姉ら

鬼灯や妓の吐く唾が楼を焼く

兄失せる露地へ稲妻這はんとす

刑場の残暑の腑分け外典誦し

ししびしほ啄む孔雀露の色

琥珀の獄とんぼの咎を億年も

姿見に血の剋し合ふ弟切草

抜けど折れど焼けど明けには立つ案山子

全天が蝗の流砂電波に沿ひ

汝が背に凭れん霧に逝く虎よ

熔岩原は鬼形に凹み律の風

鉤と鞭集ひて我と化す身に入む

夜学子の声臈たけて正答す

葛原を心臓七転び光れ

不知火に脱皮はじめの鉄を宿す

蠟涙の螺旋が龍を成す長夜

豊年の山のはらわた璧と彫る

蠱毒最後の鳴く虫ひとつオルガンへ

フォーマルハウト鹹湖にて擬死冷え尽くす

良夜の看板「翔ぶ首に耳貸すな」

目無きものらの鎬けづるが不知火

流星を湖の焦がるる蛟かな

血泥より醒めればいつも虫時雨

谷神にふくらむ木通持ち重り

はららごや粉黛にほふ風しづしづ

嘴あるは渦巻け威銃咲ふ

縄ほどく秋天よりの宿命の

敬虔の穹をうべなふ鴇の影

梁満つる湾をわれから赦し鳴く

木犀揺するは深更の巫女もどき

輪回しの韻くよ猿の腰掛闌く

珠すさまじ誰も汲まぬ井を浮き沈み

無念彩らん露のもの壜に溜め

雲廊を鹿さまよへる諱かな

白無垢の裡なる紅葉且つ散りぬ

棹は鍵は三角智印を雁めざす

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