2023-11-12

中矢温 ブラジル俳句留学記〔15〕「かもしれない」生活

ブラジル俳句留学記
〔15〕「かもしれない」生活

中矢温


こちらでの報告が大変遅くなったが、9月末でアナ先生のお家でのホームステイをお暇して、10月からは私はレパブリック(ポルトガル語の発音ではヘプブリカ)というシェアハウスでの生活を開始している。

シェアハウスといっても、形態としてはアパートに近い。ベッドとバスルームもトイレが各個室にあり、キッチンと洗濯場が共用である。ワッツアップ(日本でいうところのLINE)のグループには30人近くの若者が入居しているはずだが、生活リズムが違うのかもう退去したが退会していないのか10人程度しか会ったことがない。ダブルベッドの部屋もあって、カップルで住むこともできる。私の部屋だと月1350レアルで、日本円に直すと一か月40500円。ブラジルのシェアハウスの相場からしても決して安くはないが、高すぎる訳でもない。

ところで「かもしれない運転」という言葉を聞いたことがあるだろうか。子どもが飛び出してくるかもしれない、対向車が自分に気が付いていないかもしれないなどと、運転時の万が一に備える姿勢を促すスローガンである。

私はこのシェアハウスで猫がいる「かもしれない」生活を送っている。

一年ほど前からここに住み始めた若い雄猫が一匹いて、名はマルコスというらしい。約一年前に大家が貰ってきた猫らしい。ただし住民への猫アレルギーの確認などはなく突然だったらしい。豪快である。

さて、マルコスがいる「かもしれない」生活というのは名の通りで、マルコスが床に寝転がっているかもしれない、マルコスが戸の外で待っているかもしれない、キッチンで何かこぼしたらマルコスが誤食してしまうかもしれないというのを想定して、注意深く生活を送ることである。

マルコスは昼間はキッチンを中心にどこかで眠り、夜間は誰かの部屋で眠っているようだ。マルコスは狩猟本能に長けているので、この時期になると大発生するゴキブリを(気が向けば)倒してくれる。一通り遊んで弄ってからころしているようだ。一度ドアの前に骸が置いてあって驚いた。

さて、そんなマルコスは一週間に一回くらい甘えてくる。不意に甘えるので読めないが、大抵はこちらが急いでいたり荷物を抱えていたりするときが多く、厄介である。こちらに時間の余裕があるときにいざ撫でようとすると、知らん顔で寝ているか、どこかに立ち去ってしまうのだ。

マルコスの甘え方は次の通り。まず尻尾を揺らしながら、まっすぐ私に向かってくる。こちらが対応できずまごついているときは、「みゃー!」とハッキリ鳴いて催促する(ような気が勝手にしている)。私がすっかり嬉しくなってしゃがむと、マルコスはそのまま太腿に後ろ足をかけて、肩に前足を掛けて、私の顔の特に顎と耳をよく噛む。しかしそのあとケアとして(?)舐めてくれるので、ぎりぎり痛くない方が優る。ただし爪はいつも最高に尖っているので、服を貫通して肌に刺さって痛い。私はそのまま腹のあたりでマルコスを抱きかかえる。瞳は澄んだブルーで、光の当たり方によっては赤くも見える。目ヤニが付いているときは取るが、嫌がるときは無理はしない。マルコスが腕にすっぽりと収まったあとは、じっと抱きかかえる。マルコスは多分顎の下を撫でられるのが好きな気がするので、時々撫でる。因みにマルコスは基本的にほんのり甘くていい匂いがする。

さて、この触れあいタイムは始まりも突然だが終わりも唐突である。誰かがキッチンや廊下に現れたら来たら気になって膝を降りたり、宅急便のチャイムや雷の音に驚いて走り去ったりで、いつも読めない。

そして流石は長毛種と言うべきか、ひとたび撫でようものならあっという間に毛だらけである。ころころと転がして毛を取るクリーナーを買おうかとも思ったが、マルコスが私に甘えるのは一週間に一回という微妙な頻度なのでまだ買っていない。都度大人しく服を洗濯している。

猫の話ばかりでシェアハウスの住人の話をしていなかったが、皆いい人たちである。会えば挨拶と簡単なお喋りをするが、基本的にはお互いのパーソナルスペースを保っていて心地よい。治安もいいので、洗濯ものを干しにいくなどの一瞬の外出は鍵も掛けなくていい。

だがマルコスが部屋に入って来てしまうことを思うと、鍵は都度掛けないといけない。というのもブラジルではよくあることだが大抵のドアが壊れかけなので、鍵をかけないときちんと閉じず、マルコスが頭突きをすれば簡単に開く状態なのだ。ある日五分もたたないうちに洗濯ものを回収して戻るとマルコスが私のベッドで寝ていて、吃驚したことがある。これがマルコスがいる「かもしれない」生活の実態である。

このままだと「ブラジル俳句留学記」ならぬ「ブラジル猫留学記」になってしまうので、マルコスに似合う猫の俳句を徒然なるままに書いて、筆を置きたい。X(旧Twitter)での呼びかけに対し、好きな猫の俳句をお送りくださった皆さまありがとうございました。

夜長くて猫の言葉を解すなり 田中裕明
冬空や猫塀づたひどこへもゆける 波多野爽波
何もかも知つてをるなり竈猫 富安風生
百代の過客しんがりに猫の子も 加藤楸邨
仔猫の爪を以て仔猫を胸に留む 正木ゆう子
猫の子に光の海としてシーツ 神野紗季
ひるがほや猫の糸目になるおもひ 宝井其角



〔ポルトガル語版〕( escrevi o resumo no português )

Depois de home-stay, no primeiro do outubro, comecei morar em uma república, perto da estação Butantã.

Marcos, o gato, é a razão porque escolhi aqui a república como a moradia depois de home-stay.

Na república, no dia ele dorme na cozinha e na noite ele dorme um quarto de alguém. Usualmente Marcos gosta de ficar sozinho, mas só uma vez a semana ele quer ficar nos meus abraços. Não posso deixar dele sozinha porque eu o amo, mesmo que minhas mãos já cheias de coisa ou preciso ir logo. 

Primeiro, ele caminha até mim. Eu o recebo nos meus abraços. Ele morda meu queixo e orelha com gentileza. Ele me subiu. Eu gosto tudo dele, mas especialmente olho azul e cheio doce. 

O gato me permite fazer comunicação na maneira diferente para humana. Por exemplo, cheirar no corpo dele ou murmur. 

Apaixono Marcos.
Desejo sua saúde.

Na próxima vida, vou viver como o gato com dono rico. Eu uso meus charmes e quero diminuir pessoas com depressão.

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