2024-02-18

【俳句のあたらしい作り方】はとバス吟行 千野千佳

【俳句のあたらしい作り方】
はとバス吟行

千野千佳

『蒼海』第19号(2023年3月)より転載

二月某日、はとバスの東京観光半日ツアーに一人で参加した。目的は俳句を作ること。つまり「はとバス吟行」だ。はとバスに乗り込むだけで胸が高鳴る。〈春風やゑびす顔なるバスガイド〉〈はやばやとシートベルトを風光る〉〈襞ほそきバスのカーテンうららけし〉。

最初は皇居を巡る。若いバスガイドさんが手描きの地図を配ってくれる。〈バスガイド手描きの地図や風光る〉〈寒明や松より大き松の影〉〈かたまりて修学旅行生の春〉〈春の鴨風に押し流されてをり〉。皇居の売店に立ち寄る。〈上皇のほほゑんでゐる初暦〉〈菊紋のネクタイピンや春の雪〉。売店の近くに立派な紅梅の木があった。紅梅で句を作るべく、じっと見つめる。〈紅梅の花より大き蕾かな〉〈上皇の笑みのごとくに梅ひらく〉。私以外の参加者がバスに戻っているようだったので、やむなく紅梅の木をあとにした。

続いてバスは靖国神社へ。〈老桜に戦友会の札古ぶ〉〈英霊の言乃葉集や冴返る〉。神社の食堂に「特攻の母鳥濱トメの玉子丼(千円)」というメニューがあり、なんとも言えない気持ちになる。〈特攻の母トメの玉子丼とぞ凍返る〉。参道沿いに椿が咲いていた。句作のために近づくと、警備員に「立ち入り禁止です」と注意された。靖国神社はいろいろと難しい場所だ。

最後にバスは東京タワーへ。展望台から東京の街を見下ろした。展望台や土産物店ではあまり句ができず外へ出てうろうろした。〈あたたかや古墳と聞けばそのやうにも〉〈エレベーターガールの声の春めきぬ〉〈如月をぎゆんと東京タワーかな〉。

ここで、他の参加者からわたしがどう見られていたのか、考えてみたい。歩きながらずっとスマホをいじっている。(スマホのメモ帳に句を入力している)。急に立ち止まって、松や梅をじっと見つめる。かと思うと、きょろきょろと辺りを見回したり、空を眺めたり。……怪しい。しかし自分が思うよりも他人は自分を見ていないものだ。

はとバス吟行のメリットは、まず、それぞれの吟行地に制限時間があること。これにより句作への集中力が続く。また、普段自分が行かないような場所に連れて行ってもらえるので、思わぬ句ができることがある。バスガイドさんの説明があるのもありがたい。今回は一人での参加だったが、句友と一緒に「はとバス吟行」をしたらきっと楽しいだろう。怪しさは倍増するかもしれないが。

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